トムヤムくん

カラーパープルのトムヤムくんのレビュー・感想・評価

カラーパープル(1985年製作の映画)
4.9
時代は1909年。父親からは性的虐待を受け、夫には奴隷のように扱われ、最愛の妹とも離ればなれになってしまったセリー。「手紙」という媒体を通して、過酷な環境を乗り越えながらも、様々な出会いや経験を経て、再び最愛の妹と出会うために成長していく約40年にも渡る物語…。

何なんだこの映画!!!
本編で5回も泣いちゃったよ!!!!
スピルバーグ凄すぎるわ!!!!!😭

当時『ジョーズ』や『E.T.』『レイダース』など、大衆向けの娯楽映画で大ヒットを飛ばしていたスティーヴン・スピルバーグが、初めてシリアスな作風に挑んだ本作。また、これまでは短い期間に起こった出来事を凝縮して描いてきたスピルバーグが、初めて数年にもわたった時間の流れを感じさせるような、一大叙事詩的な作品を作ったことにも大きな価値があると思う。

スピルバーグは原作小説を読んだ直後から瞬く間に心を奪われ、大ヒット作を生み出す人気監督としてのプライドを捨てて、必死に原作者のアリス・ウォーカーに自らを売り込みに行ったらしい。白人による映画化を望まなかったアリス・ウォーカーですが、本作のプロデューサー兼作曲家でもあり、ジャズ・ミュージシャンとしても知られるクインシー・ジョーンズがスピルバーグを推挙したことで、承諾を得ることができたと言われています。

アカデミー賞では、作品賞をはじめとする11部門(助演女優賞では2人が)ノミネートされるも、若くして売れっ子となったスピルバーグへの嫉妬や、賞狙いの映画だと批判されて無冠に終わる。なぜ!?

本作は、黒人映画だからといって安直に黒人差別を訴えかけるような映画ではなく、「姉妹の愛」や「家庭内における男女格差」など普遍的なものを描いている。本編を見てもらえば一目瞭然だが、前者にはLGBTQ的な側面があり、後者にはフェミニズム的な要素がある。

つまり、舞台がたまたま黒人のコミュニティだったというだけで、黒人ではない自分たちでも感情移入しやすい作りになっているのが素晴らしい。

結局、どの世界でも「複雑な家庭環境」や「女性差別」「格差社会」は存在するのだな、ということを思い知らされる。しかも、それを白人でユダヤ系のスピルバーグが描いているのだから驚き。と言うか、ユダヤ系のスピルバーグだからこそ描けたのかも?

そして女性陣は横暴な男性たちに屈することなく抗い、その抑圧から解放されるシーンは圧巻。いちいち胸が突き動かされる。男性監督がこれを撮ったというのもすごい。

という訳で、黒人であり女性の主人公セリーはアメリカ社会のみならず、黒人社会でも最底辺の地位に追いやられてしまうわけだが、ここで何よりも素晴らしいのが主人公 セリーを演じたウーピー・ゴールドバーグの演技力。

ウーピーは本作が映画デビュー作で、小さな劇場でコメディアンをしていたところを一目見て、アリス・ウォーカーが「セリー役は彼女しかいない」と判断。スピルバーグにも「君がやらなければ僕もやらない!」と言わしめるほど…。

戦い方を知らない、上手く笑うこともできない少女だったセリーが、自分を見つけてひとりの人間として成長していく過程には涙を抑えきれない。スピルバーグの人間洞察力もさることながら、彼女に対する演技プランが素晴らしい。

また本来ならば、ひとりの女性の人生を2時間半も費やして描くと、どうしても間延びしてしまうものだけど、心地良いテンポ感と、間に挟まれるクスッと笑えるコミカルさ、そして詩情溢れる美しい映像美、音楽によって観る人を飽きさせない演出が巧み。無駄を省いた脚本は多少粗さはあるものの、あえてセリーたちにとっての「転換点」しか描かないという勇気が凄い。

そしてダニー・グローヴァー演じる威圧的で横暴な夫の「ミスター」や、オプラ・ウィンフリー演じる社会的格差と人種差別の壁に直面する「ソフィア」や、マーガレット・エイヴリー演じる主人公の成長を支える「シャグ」の存在も強烈で、たった2時間30分の映画なのにこいつらの存在に終始ずーーーっと泣かされてしまった!まだ涙が止まらない!くそぉ!!!😢😢😢

映像、音楽、演出、配役、演技、もはや全てにおいて完璧としか言いようがない。多少描き足りておらず、ツッコミたくなる箇所はあるものの、そんな事どうでもよくなるくらい泣いたし笑ったので、これはもうほぼ満点!!!!!!