さすらいの用心棒

時よとまれ、君は美しい/ミュンヘンの17日のさすらいの用心棒のレビュー・感想・評価

3.4
ミュンヘンオリンピックを8人の映画監督の視点から捉えたドキュメンタリー映画


映画『東京オリンピック』の市川崑のほか、『カッコーの巣の上で』のミロス・フォアマン、『男と女』のクロード・ルルーシュ、『真夜中のカーボーイ』のジョン・シュレシンジャー、『俺たちに明日はない』のアーサー・ペンなど、名だたる監督がそれぞれ好きな競技を選んで撮影したオムニバス。しかし、よくここまでの面々を揃えたなあ。

『最も強く』(重量挙げ)ユーリー・オーゼロフ監督
ダンベルを持ち上げることへの「執着」を追った作品。山のような身体をもつ選手たちがリズミカルかつユーモラスに描かれており、巨体の男が本番で駄々をこねたり、頭上高くダンベルを持ち上げ喝采を浴びる様子はスポーツというより人間ドラマそのもの。

『最も高く』(棒高跳び)アーサー・ペン監督
いちばん印象に残った作品。一切のセリフを排除し、スローモーションを効果的に駆使して美しい構図のなかに跳躍の一瞬を落とし込んだ佳作。ゲーテの『ファウスト』から来る本作のタイトルに相応しい。

『最も早く』(100m競争)市川崑監督
『東京オリンピック』はあれほどの傑作だったにもかかわらず「記録か芸術か」論争に巻き込まれたために当時映画界を干されていた市川崑だったが、こうして起用されたところを見ると世界からはきちんと評価されていたみたいだ。
『東京オリンピック』では100m競争で主催者側から正面のカメラポジションを与えられなかったことから、リベンジを試みている。ルルーシュ監督もカメラマンとして協力しており、実際に採用されている。正面かつ望遠カメラであるため距離感や疾走感が掴みづらいが、その代わり肉体の躍動や選手の表情がよく伝わった。なお、引き続いて谷川俊太郎が脚本を担当している。

『敗者たち』(レスリング)クロード・ルルーシュ監督
レスリングを中心に各競技における選手の敗北をとらえた作品。8人の監督がいるが、一貫してスポーツの勇ましさや栄光とはズレた視点からオリンピックに迫っており、それが顕著に表れた作品といえる。こういった時の人の表情というのは、フィクションではお目にかかれない。

『最も長い闘い』(マラソン)ジョン・シュレシンジャー監督
「黒い九月」によるテロの生々しい空気のなかマラソンをすることとなったひとりの選手を追った作品。作品の内では最も映画的な一作だろう。それにしても、のちに『マラソンマン』を撮る監督がこの競技を選ぶとは。


途中寝落ちした作品もあったし、正直なところ期待したほどのパッションは感じられなかったけれど、制御できない状況をカメラにおさめ映画として完成させる監督らの情熱には敬服したい。
2020年の東京オリンピックに河瀨直美監督はどう向き合うのか。