Jeffrey

時よとまれ、君は美しい/ミュンヘンの17日のJeffreyのレビュー・感想・評価

3.5
「時よとまれ、君は美しい/ミュンヘンの17日」

冒頭、時は1972年。黒い9月の魔の手がある中、平和の象徴である五大陸のスポーツが始まる。選ばれた8人の監督、多種多様な人種、犠牲になったイスラエル人11人、聖火、ランナー。今、五輪の相互の結合と連帯が映される…本作はファマンらルルーシュ、市川崑をはじめとする8人の監督が1972年8月26日から17日間に渡って開催されたミュンヘンオリンピックの記録映画を収めた傑作フィルムで、レンタルされていなかったため、DVDを購入して初鑑賞したが素晴らしい。市川崑の「東京オリンピック」は最高に好きだが、こちらも好きである。正直言っ観る前からオムニバス形式って一体どういう感じになるのか不安だったが、懸案が良い形になっていて良かった。まさにタイトル通りである。

史上最大の規模で開催され、黒い9月等のアクシデントも乗り越え、ドラマティックな盛り上がりを見せたミュンヘンオリンピック公式ドキュメンタリー映画は、長らく封印されていたゴールデングローブ賞に輝く名作として日本では知られている。この作品は122カ国から8000人の選手が195個の金メダルを目指してミュンヘンに集まって、その中には5本の指にも満たない選手しか送ってこない国や3台のジェット機を貸し切って乗り付けた国もいたそうだ。そして東京大会からメキシコ大会を経験してきたベテランもこのオリンピックの開始は最も長い瞬間と言っているそうだ。

そしてやはり度肝を抜かれたのはウェイトリフティングだ。あの顔を真っ赤にして今にも血管がブチ切れそうな選手たちの苦痛の表情がすごい印象的だ。世界一の力持ちを競うこの競技においての体重100キロをはるかに超える大の男が持ち上げた瞬間の拍手喝采は胸を打つ。それをサポートする食事で、消費された卵110万個とトースト60万枚と牛肉4万8千キロと言うデータを見てしまうと驚愕だ。そして棒高跳びのシークエンスは人間ていうのは5メートル以上の高さを征服することができるのか…とまじまじ見せつけられた。ところが、選手たちが次から次えと失敗していき、失望に大きく歪む表情をいやらしく監督がクローズアップする場面などは悲しくもなるが、やはり何とも厳しい世界で戦っているんだなと思い知らされる場面でもある。


本作の冒頭は、真っ赤な太陽が昇る。画面の基調は赤に強調されて燃え上がる。けたたましい音と共に聖火を持つランナーが走り始めた。そしてミュンヘンの街並みが流暢なカメラワークで捉えられる。白いハーフパンツにタンクトップ、様々な人種が入り乱れ、競技場を走っている。階段を上り、今その手に持つ聖火を大きく掲げ火に灯す。そして画面は一度フェイドアウトして、シャッター音とともに静止画が数枚写し出される。そして第一目の監督の作風が写し出される。

続いて、様々な民族の表情をクローズアップする。東京、メキシコシティーそういった流れでオリンピックがなされて行き、巨大な会場が捉えられる。そこには蜂の巣のような屋根の下に8万人の観客がすし詰め状態でいる。数千人が丘を埋め尽くし無数の人々が競技場で準備を整えている。全世界のマスメディアのカメラ、記者、宗教のお祈り、選手たちの祈る姿が映される。必死に練習をする選手たちのクロスカットがなされる。そして拳銃の音とともに炸裂する画面のカット割り、いよいよオープニングが始まり、オリンピック開始である。


あの高カロリーな食事のシーンはすごい迫力がある。グリンピース、ステーキ肉、フライドポテト、肉を掻っ捌く料理人、サラミやサンドイッチの運ばれる機会、鶏肉、ピクルス、卵、そういったのが様々な映像と交互にクロスカッティングされる。なかなかすごいものを見れた。この時点では女性選手が最も出場したオリンピックとしても有名だそうだ。それを強調したかのようにオリンピック競技で代表選手たちが堂々と入場するショットがいくつもある。まさに華麗の極みである。あの市川崑が撮ったランナーたちの4倍スローの表情の数々は圧倒的だ。口を開けて走り空気が口の中に入り歪むあのショット、負けて悔しがるアフリカ系の選手の苛立ちの表情で走りきった白色人種の優越感に浸る表情、真っ正面から捉えられるランナーたちの懸命な走りには感動する。そしてカメラが不意に横に変わり、誰が1番手かを見せるトリックも最高だ。

あの、乗馬のシーンとか、すげえ危険だわあれは。危険と隣り合わせ、生きるか死ぬか、命を賭けた競技だ。やはりエンドクレジットには犠牲者のイスラエル人選手の追悼と言う意味合いでメッセージが送られていた。パレスチナのゲリラによって人質にされ射殺されてしまった血に染まったオリンピックだったが、次のモントリオールオリンピックにつなぐためにみんなが頑張ったのだろう。
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