kyon

ナイト・オン・ザ・プラネットのkyonのレビュー・感想・評価

4.5
ちょっと前に観た☺︎

地球儀から最初の5つの時計が並ぶカット、この1シーンだけで、地球上の5つの都市の物語を並行して語るという趣旨が理解できる。

反復する黒画面と時計へのズームがたまらん。

LA、NY、パリ、ローマ、フィンランド…。
それぞれのタクシーの中で起きる物語。

ジャームッシュの反復、移動の感覚は随所に現れ、そんな固定されない場所、イメージが観ていて心地良い…。

とりわけ印象的だったのは最初の3編かな。

やり手風のキャスティングプロデューサーみたいな女性とタクシー運転手の少女。

煙草ふかす場面とか年の差のある女性同士のささやかな交流。
目的地に着いたら、プロデューサーの女性がタクシー運転手をスカウト、でも彼女は断ってしまう。

いわゆる成功への道というか野心というか、なくてもいいじゃん、今を生きてれば、みたいなちょっとタイヤの張り詰めた空気を抜いてくれるようなジャームッシュの少女は日常の細部を大切に生きる喜びを出してくれる。

2つ目のNYは異邦人のタクシー運転手と黒人のブルックリン出身の男性。
運転も下手だし英語もカタコト、でもそれでも笑いあってしまうし、コミュニケートしてしまう。のちに妹が登場するんだけど、固定された世界にいわゆるよそ者が入るだけでバランスが変わる。

2人が被ってた帽子のやり取りも好き。俺のは最新モデルだけど、お前のは違うぞ!と主張するブルックリン男性に、いやいや、まあまあどっちでも良いんじゃない、ってこちらも日常を描きながら、私たちの日常の感覚に何か変化を与えてくれる。

3つ目のパリは、個人的にグッときてしまって、アフリカ系の黒人のタクシー運転手と盲目の女性。

冒頭から黒人同士が喧嘩していて、いわゆるお客側が俺たちは大使館職員だから丁重に扱えよ、みたいな感じで運転手の彼をからかうんだよね。同じ肌の色をしているのにこちら側とあちら側が、見えない境界線があって、その感じからどこかアイデンティティを彷徨う彼の不安が垣間見える。

そして目的地半ばで降ろしてしまう彼。しばらくして乗車するのは盲目の女性。セーヌ川まで、って言うんだけど、彼女の胸元ががっつり開いたワンピースにコートの姿はどこか娼婦的な予感もさせる。そんな彼女が盲目だってわかると今度はタクシー運転手の彼が彼女に無意識のうちに境界線を引こうとする。

でも盲目ゆえに彼女の中で外見に対する偏見や差別的意識はなくて、彼女の存在が黒人の彼にとってはすごく特別な存在、というか救われる物語に見えて。

だから彼女が私は目は見えないけど、相手を感じられるのよ、って答えたとき、いわゆる不幸な境遇だと思われがちの彼女がむしろ羨ましく見えたり。

そんなコミュニケーションがここにはあって、すごく高まった。

でもその次の物語は司祭があっけなく亡くなったりして、ジャームッシュのブラックユーモアも混ぜつつ。

どの人種も文化も音楽も性別も、年齢さえもあるがまま、等価的に映そうとするジャームッシュに惹かれるのは、こういった普段氾濫している固定されたイメージから脱却させてくれるからなんだろうな。