Norika

ナイト・オン・ザ・プラネットのNorikaのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

05/20/2019

最後のヘルシンキのストーリーについて、エンドロール中もずっと考えてしまった。哀しくて、哀しくて毎日の自分の命を細い糸でなんとか繋げているような日々だろう。お客の2人は一緒に哀しみの一部を共有していたけれどそれはあくまでもタクシーの中にいる時だけ。もしくは時たま思い出すくらいだろう。でもミカは、「意識」の奥深くまで侵食してしまうような鋭くて大きい苦しみや哀しみを持ってこれからも生きるんだ。「彼女が死ぬことが避けられないから愛することを避けた。でも彼女は愛なしでは生きられない。愛することを決めたとき、愛情が体からほとばしった。」でも彼女は死んでしまった。


そんなとき、ミカの周りにいる人たちができることはミカのそばにいてそっと抱きしめてあげることだけだろう。そんなとき、どんな言葉も、彼を癒すことはできないだろう。


ニューヨーク・パリでは、運転手の生活の中にある苦労のようなものを想像してしまう。本人たちは苦労と思っていないかもしれないが(本人たちが思っていないなら、それはもはや苦労とはいえないのかもしれない。私は結局私の枠組みの中で何が苦労で何が苦労ではないのかを考え、人をそこに当てはめ同情してしまうような人物なのか)。パリの運転手も夜の8時から朝の8時まで働いている、と言っていたし。世界のほとんどが眠っているときに街に出て道を走るというのはどのような感覚なのだろう。彼の「1日」に対する始まりと終わりの概念は私のそれとは違う。朝から1日が始まるのは、全員じゃない。

盲目の女性が言った「映画を感じるのよ、あなたにはわからないでしょうけど。」というセリフ。「皮膚を全部つかって感じるの。」というセリフ。もちろん私がそれと全く同じ感覚があるとは思えないが、それでも彼女が言おうとしていることを少しはわかる、ように思える。彼女の服のセンスはとても高尚だったし、爪も綺麗に塗ってあったが、誰が選んでいるのだろう。それを疑問に思った。 また彼女のいう
「肌の色なんてどうでもいいのよ。人参の色だろうが青だろうがどうでもいいのよ」
は、他の誰よりも強い。なぜならそこにはそのセリフを言う人々にたまに感じられる一種の自戒のようなものが全く感じられないからである。彼女にとっては、ほんとうに、どうでもいいのである。


ちなみにパリ編のラストは、「目が見えようが本当に「みよう」としていなければ事故にもあう。きちんと「みて」いれば防げたようなことも防げなくなってしまう」ようなことを言いたかったのか。運転手は彼女をタクシーから降ろした後何か紙に書いていたように思えるが、そこに何を書いていたのかについては確かではない。

こんなに長くレビューを書くつもりではなかったが、ここまできたら全ての物語について書こう。

カリフォルニア
「きみに読む物語」で年をとったアリーを演じた方がまた今回も気品溢れる、気の強いマダムを演じていた。ウィノナ・ライダーの話し方は見ていてくせになる。途中ガムを吐き出した後も、ぺちゃくちゃとした口の動き。歩き方まで完全に役になりきっていて感心した(上から目線に聞こえるかもしれないが)。最後潔く、オーケー、と言ってタクシーを後にするマダムのそのなんとも言えない「新しい発見だわ」「こんなこともあるのね」という表情はみていて気持ちが良い。そのあと鳴り続ける電話に 対してshut upというのもよい。

ニューヨーク
先程も少し書いたが、これは運転手のこれからの生活に対して「苦労」を想像してしまい、正直大丈夫かどうか心配になった。ヨーヨーのような優しいお客さんばかりだといいが…money is not important. I need them, but it’s not important. I’m crown. というヘルムット。人を笑顔にすることが重要なのであって、お金なのではない。彼の人生をもっと知りたい。この映画に登場する人は、全員わたしにその人生をもっと知りたくさせた。なんと魅力的な登場人物の描き方をするんだ、ジム・ジャームッシュは。。。。。。 ヨーヨーとアンジェラ?の会話もファックだらけだけど、愛おしい。ヘルムットが彼らをみて、家族はいいものだ、と言っていたのもわかる。ヘルムットは家族がない、と言っていた。言葉も通じないような場所で、心の戻る場所になるようなファミリーもいない。それでも誰かを笑顔しつつげる(道化師であり続ける)、そんなヘルムットにとってどうか世界が優しくありますようにと願わずにはいられなかった。


イタリア
これは、、、あのお客さんは大丈夫なのか。。。。終わったあととても心配だった。せめて病院に。。。
たしかに、運転手が勢いよく話し続けるのは見ていて面白かったし、話の内容もかなりパンチが効いていたけれど(言葉をあそこまで瞬時に駆使して状況を思い浮かべさせる彼はすごい。コメディアンになったら、ぴったりだと思う。)、せめて病院に連れていってお客さんが意識を戻すというところまでがほしかった、、(もちろん運転手の彼はその間もずっと喋り続けているだろうが。)


パリとヘルシンキについては、先述したので省略。

夜に観て、しかも途中から電気を消して観たのでまるでタクシーの中で彼らと共に夜の街を走っているような気分になり楽しかった。

どれも、彼らにとって忘れられない夜になるだろう。いやもしくは、毎日が忘れられない夜なのかもしれない。でもこのような夜ばかりで、どれもが忘れられないというよりは、忘れながら毎日が過ごされるのだろうか。そのように思うと私のこの毎日も、もっとペイアテンションして過ごさないとその面白さを見逃してしまうぞ、という気持ちになった。
Norika

Norika