5つの都市を舞台にタクシードライバーと乗客のやりとりをオムニバス形式で描く。
時差により、現在時刻が異なる5つの都市を走るそれぞれのタクシーは、乗客もドライバーも様々。
個性的なドライバーと乗客の組合わせが見事で、抜群の相性で巻き起こす化学反応が楽しい。
ガムを噛むヘビースモーカーの若い女性がドライバーで、キャスティング・ディレクターがそれに乗る。
女優にならないかと誘うラストで、人生って何が起きるか分からないなあ、出逢いって大事だなと思った。
映画スターになった彼女が、他の都市で乗客として登場するだろうと思ったが、ジャームッシュはその予想を見事に裏切る。人生プランを崩さない女。それもまた人生だ。
舞台をニューヨークに移し、運転が下手くそなドライバー登場。
「もしも、こんなタクシー運転手がいたら」というドリフのコントだ。同じ帽子を被り、互いの名前で笑う二人に笑った。
盲目の女性を乗せた黒人ドライバー。
神父を乗せた喋りまくりのドライバー。
不幸な酔っぱらいを乗せた不幸なドライバー。
生まれも育ちも違う他人が、タクシーという狭い空間で初めて出会い、言葉を交わす不思議な時間。ジャームッシュは、その空間で繰り広げる会話劇に喜怒哀楽のすべてを入れた。
固定カメラの長回しだけなら退屈な映像になっていたが、正面や横顔、窓から見上げる景色、夜の街並み、走るタクシーの引きの画やパンなど、カメラワークが秀逸で飽きない。
車窓や水面や路面に反射する街の灯りが美しく、それぞれの都市に漂う空気感が伝わった。