ローズバッド

HOUSE ハウスのローズバッドのネタバレレビュー・内容・結末

HOUSE ハウス(1977年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます


ドスケベ・ディザスター・鎮魂ムービー


亡くした人を想い続ける気持ちが、すべての発端であり動機付け。
叔母さま【南田洋子】は戦争で亡くした夫を待ち続け、オシャレは亡くなった母親を想い続けている。
僕はてっきり「亡くした人への想いを胸に秘めながらも、未来へ歩み出す」という、真っ当で常套の大団円の結末になるものと思い込んでいた。
特に、継母が来た時は、過去に囚われた2人の心を解きほぐす役割を果たすものだと思った。
血の繋がらない家族関係が、未来へ歩み出すカギとなるのは、今どきの映画によく見られる、重要なテーマ設定だからだ。
ところが、本作はそんな結論には達しない。
「亡き人を想い続けて化け猫になるのも、また良し」というような結末。
この感覚をとても新鮮に感じた。
やはり、大林宣彦監督ら戦争経験者の世代の死別した人を想う気持ちには、若輩者には想像できないものがあるのだろうか?
それとも、コメディホラー映画として、単にバッドエンドにしただけなのだろうか?

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大林宣彦印の“A FILM”。
その後のタイトルロゴのデザインからして秀逸。
序盤は女子高生仲良しグループのキャッキャッと楽しい、絵に描いたようなハイスクールライフ。
本当に“絵に描いたよう”で、ほとんど全てのカットに何らかのビジュアルエフェクトが施されている。
強烈な色彩、書き割りの背景、画面分割、コマ割り、アニメーション…。
特殊技法の発表会のような状態。
ただただ、その圧倒的なアイデアの量にのまれていく。
「映画とは、こういうもの」という固定観念を破壊する試みが楽しい。

そして、アイデアだけでなく、基本的なシーンを演出する技術水準が非常に高い。
継母【鰐淵晴子】のベランダでの登場シーンは、あまりの美女っぷりに息を呑んだ。
オシャレ【池上季実子】の入浴シーンでは、18歳の水が滴る背中が本当に艶っぽい。
クンフー【神保美喜】の飛び蹴りなどのアクションは、カットの素早い切り替えが生み出す躍動感が凄まじい。
どれも、今どきの映画なんかより遥かに、美しく、色っぽく、楽しく、撮られていて本当に素晴らしかった。
そして終盤、化け猫屋敷がその本性を見せてからの、アクション&ディザスター映画としてのカオス状態は、筆舌に尽くしがたいほどの眼福の時間だ。
ピアノに喰いちぎられる少女の体が宙を踊り、雨戸や障子があざ笑うかのようにコマ送りで動きだし、電灯の傘が少女の上半身を噛みちぎり、下半身は化け猫の日本画に飛び蹴り、赤く光る水が沸き出すと畳に乗って漂流…。
そして化け猫と同化し胸をはだけたオシャレに、みんな呑み込まれてしまう。
翌朝、継母を迎え入れ、ゆっくりと雨戸を開けていく和服姿のオシャレの、落ち着いた所作の長回しとの緩急も面白い。
世界的にカルト映画となったのも当然の、凄まじい映像表現に酔い痴れる大傑作だ。

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大林宣彦監督には明らかに少女愛の目線がある。
18歳の乳首見せ。
透明な床下からのカメラで、スカートの中を覗く。
あげくの果てには、少女たちの首や指や四肢を切り刻み、幽玄のイメージの中で踊らせる。
ハンパじゃない変態、つまり、最高の映画監督だ。

たぶん根っからのスケベなんだろう。
3年前、77歳当時のアメリカの映画祭の映像を見ると、美人の通訳を言葉巧みに口説いて、観客から爆笑をとっていた。
そして最後にいつもどおり、最愛の妻と娘を観客に紹介していた。
なんと魅力的なジジイなんだろう。
暖かい声のトーンと、知的で文学的な語り口。
誰もに愛される“人たらし”なんだろう。
先日、80歳記念の特集上映で、生の姿を見ても、そう感じた。
ガン闘病で痩せ衰えていても、人を引き込む言葉のリズム、文学的でありながら明晰で論理的な思考回路、そして何よりも、もの凄くチャーミングな人だった。

最新作『花筐/HANAGATAMI』は、『HOUSE』より以前に脚本が完成しており、2作の根底にあるテーマは同じであり、表出のアプローチが違うだけだという。
『花筐/HANAGATAMI』を見るのが楽しみだ。
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