約20年ぶりぐらいの鑑賞。ヴィム・ヴェンダース監督作品として有名だが、初回鑑賞時は僕自身に映画の経験も少なく、あまり記憶が残っていない。
4年間失踪していた男がテキサスの荒野で発見される。彼の名前はトラヴィス。残された幼い息子ハンターを育ててきた弟夫婦が一旦引き取る事になったが、その後トラヴィスは中古車を買いハンターと2人で、かつての妻を探す旅に出る。
何しろ冒頭30分間、主人公のトラヴィスは一切喋らないのである。商業映画ではちょっとあり得ない思い切った設定なのだが、こうした作家性の強い映画が台頭し始めたのが'80年代中盤であり、本作を指して言われる「ミニシアター」系作品として、日本でも注目されるようになった。
最低限の会話と、砂漠の枯れた風景と、ヒロインを演じるナターシャ・キンスキーが着る赤い衣装に代表される、絵画的な色彩。所謂ハリウッドのゴージャスな大作群が栄華を極めた当時だからこそ、今作のようにシンプルで詩的な作風は異彩を放っていたと思う。
有名なのぞき部屋での鏡越しの会話シーンはとても印象的で、是枝裕和が「万引き家族」の中で松岡茉優に同様のシーンを用意しているし、多くの映像作家に影響を与えたに違いない。
しかし、トラヴィスが自身の過去に向き合うストーリーに枝葉は少なく、彼の身勝手と映る行動に振り回される妻、息子、弟夫婦の、作品内での扱いが何とも気の毒に思える。
映像表現としては偉大な作品なのであろうが、40年前の作品という事で、現代の価値観で観ると少し男のロマンを追い過ぎる印象だ。