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パリ、テキサスのpanpieのレビュー・感想・評価

パリ、テキサス(1984年製作の映画)
4.7
Blu-rayで観た事もあるのだろうけど空の青がとても美しく流れる白い雲、どこまでも続く荒野のオレンジに魅せられた。
トラヴィスが冒頭でただ一人彷徨い歩く独特の形の岩がグランドキャニオンにほど近いんだと思わせる。
待てよ、ここはもうメキシコ?
埃だらけのボロボロの服を着て真っ黒に日焼けして一人ひたすらに歩く痩せた男。
冒頭から掴まれてしまった。

男は喉が渇いてカラカラだ。
やっと見つけたダイナーに入ったが水はなく氷を口に入れた瞬間に倒れてしまう。
男は近くの診療所に運び込まれ意識は回復したものの名前どころか何も喋らなかった。
困った医師が男の持ち物の中に名刺が一枚あったのを見つけ電話してみる事に。
電話に出た男ウォルト・ヘンダーソンは無口な男の弟だった。
ウォルトは兄のトラヴィスに会うのは4年振り。
トラヴィスは以前はウォルト夫婦と交流があったものの幼い息子ハンターをウォルトに託し4年前に失踪していた。
ウォルトはハンターを自分の息子として育てていたしトラヴィスは既に死んでいたと思っていた。

やっと探し当てたテキサスの診療所からトラヴィスは既に逃走しておりウォルトがやっとトラヴィスを見つけて車に乗せても何も喋らないしモーテルにチェックインしたのにトラヴィスのボロ服と靴を見兼ねて買いに行き戻ってみるとトラヴィスの姿はない。
やれやれ、また逃げたんだ。
トラヴィスは線路の上を何処かを目指して脇目もふらず歩いていた。
トラヴィスは何処を目指しているのか?
何故彼は喋らないのか?




↓ここからネタバレあります。↓








前半は何も喋らないトラヴィスに釘付けになった。
そのうちにぽつりぽつりと話し始めるが〝パリ、テキサス〟の件や飛行機を怖がって離陸前に降りる羽目になったり運転を変わるとウォルトが助手席で寝たら〝パリ、テキサス〟へ向かおうとしたりちょっと笑ってしまった。
トラヴィスは失踪していた4年間何があったかは一切語らなかったがウォルトの家で暮らしている息子のハンターに会いに行く為やっとウォルト宅のあるロスへ向かう。
その後逃走することはなくトラヴィスはとうとうハンターと再会する。
ハンターはもうすぐ8歳になるが4年前の記憶はあまりないと言っていて突然現れた本当の父親にも馴染めないでいる。
当たり前だ。
自分を捨てたんだもの。
子供だって分かる。

でも再開した父親と昔撮影された自分がもっと幼くビデオ映像の数年前の父親が別人の様に笑顔で楽しそうだったのも分かっている。
捨てたとしても子供なりにどんな事情があったのか知りたい筈だ。
写真で見せてくれた若くて美しい母親の事も気になる筈だ。
後半からはトラヴィスとハンターの旅が始まる。

ハンターがかわいい。
それになかなか賢い子だ。
トラヴィスとの道中の車の中で地球が出来るまでを熱く語って聞かせたりする。
ハンターのベッドの寝具がC-3POとR2-D2のイラストだった事から「スターウォーズ ジェダイの帰還」が流行っていたのを見て取れる。
「遥か彼方の銀河系で…」なんて台詞があった気がする。
携帯のないこの時代にトランシーバーでのやり取りがなかなか良い。

銀行で待ち伏せしてジェーンの乗った赤い車を追うシーンはハラハラした。
違う車線に同じ車って!
本当にこっちでいいの?
ハンター、本当に?

もうね、ラストのトラヴィスとジェーンのシーンは切なかった。
ジェーンが次第に相手がトラヴィスだと分かって涙を流す。
片時も離れたくなくて本物の恋だったと分かるけど愛が深すぎて相手の事が信じられなくなるなんて悲劇。
トラヴィスはあの店で後ろ姿だけでジェーンと分かるシーンも。
ここでジョン・ルーリーがこの店のオーナー役?で一瞬出ていた。
(「ストレンジャーザンパラダイス」と同じ1984年の映画だったんだなって後で調べて見てびっくり。)
ハンターの顔を見ないでトランシーバーでトラヴィスが息子への愛を語るシーンも。
もうラストには全てが詰まっていて本当に切なかった。


劇中でトラヴィスが母の出身地で地図に載っていると言うシーンがあった。
テキサスにパリは本当にあった!
Parisと書いてパリスという地名だ。
殆どオクラホマ州寄りに位置する。
学生の頃地理が苦手だった私は最近映画を観てgoogle mapで調べるようになった。
位置が分かると面白い。
そこへ行った気になるから不思議だ。


フランスのパリとアメリカのテキサス州を行ったり来たりする話では全くなかった。(^^;;
しかも昔観た事があったのに初見の様に全く覚えてなくとても新鮮に感じられた。
若かった私には全く沁みてこなかったのが残念。
ただナスターシャ・キンスキーの美しさだけは覚えていた。
主人公がハリー・ディーン・スタントンだったのに全く覚えていなかったのは泣ける。(;_;)

ハリー・ディーン・スタントンを最初に覚えたのは「エイリアン」から。
「エイリアン」でもヤフェット・コットー演じるパーカーに引っ張られてる無口な役だった。
「猫ちゃん、猫ちゃん」とノストロモ号で飼っていた確かジョンジーと言う名の猫がエイリアンから隠れているのを探しに行ってエイリアンに殺られてしまう役。
「エイリアン」に出ていた時で既に53歳だったことになる。
今作では58歳だったなんて!
渋いはずだ。笑
とても多くの作品に出ていた様だが私は今作で初めて主役を張ったハリーを観た。
寡黙な役が本当によく似合っている。
昨年9月に91歳で亡くなってしまった。
とても残念で悲しかったけど意外と長生きだったんだなぁ。
新作「LUCKY」は来月から公開だそうだ。
デヴィッド・リンチが友人役で出ているそうだ。
あとキャストの中に「エイリアン」で船長役で出ていたトム・スケリットの名前もあった。
私の頭の中は今も「エイリアン」で占められている。笑
最期のハリーに会いに行こうと思う。
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