ポップと水玉

パリ、テキサスのポップと水玉のレビュー・感想・評価

パリ、テキサス(1984年製作の映画)
5.0
未成年に手を出したロクでもないオッサンの話。主人公は無責任なクソだが、映画はいい。音楽も構図も最高。ロードムーヴィーなので前半と後半で二回旅が出てくる。テキサスからロスへの道中はとにかく風景が美しく、主人公の空っぽの内面とリンクして心にしみる。ロスで息子と再会した主人公は、徐々に人間味を取り戻し、息子との絆を深めていく。そして今度は息子を連れて妻のいるヒューストンへ向かう。
妻を見つけ、クラブのマジックミラー越しに会話するシーンが最高に面白い。主人公からは妻が見えているが、妻からは主人公が見えない。ゆえに妻は正面からのバストショット(小津っぽい)で映し、主人公は左から横顔を映す。向かい合って話してるのに、見る見られるの関係は非対称だから、切り返しショットも非対称になっている。2度目はさらに変で、妻は主人公を見ているのに、主人公は妻に背を向けて話しはじめる。辛い告白だから妻を見れなかったのか?あるいは、妻には自分が見えないという不平等な状態で話したくないという、主人公なりの誠実さかもしれない。いずれにせよ、マジックミラー越しだからできる離れ業という感じ。そして妻が相手の正体に気づき、見る見られるの関係が対等になった時、二人の顔がミラーの上で重なる。そこから向かい合わせで会話が続き、今度は先ほどの主人公を模倣するように、妻が反対側を向いて過去を告白しはじめる。「ずっとあなたと話してたのよ」……
母子を引き合わせて消えてしまう主人公はやはりどうかと思うが、彼は彼なりに己の責任を果たしたのかもしれない。子供を取られた弟夫婦はかわいそうだね。