とても魅力的な映画でした。
あまり多くを語らない映像の中に、愛の美しさも人間の弱さも十分に詰め込まれた一作です。
テキサスの荒野を真赤なキャップとボロボロのスーツの男がただならぬ顔で彷徨う。しかも主人公であるこの男トラヴィスは序盤を通してほとんど語らない。そんな印象的な冒頭にグッと惹きつけられる。
中盤はトラヴィスが徐々に人間味を取り戻していく過程ですが、4年前に別れた息子のハンターとの絆を取り戻していく様子もとてもいい!車道を挟んで平行する歩道を親子が歩くシーンでは、言葉は交わさなくてもゆっくりと心を通わせていく様が美しく描かれていて大好きです。
終盤はトラヴィスと別れた妻の愛が主題。マジックミラー越しに対面するシーンは映画史に残る名場面だろうと思います。愛し合っていたにも関わらず未熟さゆえに傷付け合ってしまう、そんな切なさが溢れたシーンはとても感動的です。ラストシーンも切なさと美しさに押しつぶされるような感覚になります。
「パリ、テキサス」というタイトルは作中で語られる些細なエピソードに由来するものですが、そのエピソードの中にも人間の愛おしさと愚かさが映し出されていてとても印象的でした。ヴェンダース監督の芸術性・文学性が随所に発揮された作品といえるでしょう。
◆追記 2022.1.22 京都シネマで鑑賞
いいシーンはどれも素晴らしかったが、特に8mmフィルムのシーンはジーンときた。ライ・クーダーのスライドギターもいい味だった。