ケンヤム

パーフェクト ワールドのケンヤムのレビュー・感想・評価

パーフェクト ワールド(1993年製作の映画)
4.5
やっぱりこの作品でも、クリントイーストウッドは暴力を狂気的なまでに忌避している。
それを象徴する、ブッチが暴力を振るうお祖父さんを拳銃で恫喝するシーン。
「愛してると言え、さもないと殺すぞ」という狂気的な感情に彼は囚われている。
父に愛されなかったという一種のトラウマに囚われた運命を彼は生きている。

だからこそ彼はフィリップに同情し、連帯意識を持つのであるが、彼がフィリップに問いかけたある質問がそれを破綻させる。
「ママはキスしてるのか?」
「ママはしないよ」
この会話は、側から見るとなんの意味も持たない様に見えるが、彼にとってはとても意味のある問いかけだったのだ。

彼のこの質問に隠された思いを言葉にするなら、こうなる。
「(俺の母ちゃんは男を連れ込んでキスばっかりして、俺のことを見向きもしなかったけれど)ママはキスしてるのか?」

この質問によって、ブッチとフィリップの間には愛情を注がれなかった者と、今もなお注がれ続けている者という決定的な深淵が生まれる。
だからこそ、フィリップは主人公を撃ってしまったのだと思う。
あの暴力的なお祖父さんを痛めつけられた子どもの気持ちと同調して撃ってしまったのだ。
そして、ブッチはフィリップを母親の元へ帰すことを決意した。
あの質問によってもたらされた決定的な深淵の仕業だと思う。

「受け渡すものと受け継ぐもの」というテーマはクリントイーストウッド作品の根底に流れる。
あのアラスカの手紙を受け継いだ、フィリップはこれからどうしていくのだろう。
「いい人でも悪い人でもない。ただみんなと一緒にできなかった人」の味方としてこれからも生きていってくれるだろうと思うし、そうであってほしい。
俺も、ブッチの意志を受け継ぎました。
ケンヤム

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