まりぃくりすてぃ

雲がちぎれる時のまりぃくりすてぃのレビュー・感想・評価

雲がちぎれる時(1961年製作の映画)
4.0
昔の邦画の名女優の中で一番気になる人が、有馬稲子さん。
どの作品でも私は、彼女を見ているあいだじゅうずっと「あ、今、オードリー・ヘプバーンに似てる」「今は似てない」「また似てきた」「でも、根本的に似てないよね……」などと一人こっそり花びら占いみたいに稲子バーン占い(?)をしてしまう。
この映画では、いきなりサングラスでの登場が「ティファニーで朝食を」みたいでドキドキさせてくれた。佐田啓二さんは、役回り的にその「ティファニー」のジョージ・ペパードだったり、外形がグレゴリー・ペックだったり、と私の馬鹿臭いこだわりがスクリーンに蛾のようにまといついた。

でも、この「雲がちぎれる時」においては、結局はあまりワクワクさせてくれない稲子さんだった。まさに「ティファニー」的に感じ悪く描かれているから。(キスは無国籍風に綺麗だけど。)
そのぶん、倍賞千恵子さんの初々しく善良でシットリともしているキャラに、救われる。倍賞・有馬の係わりシーンも自然だし、人物の相関バランスが全体として結局すばらしかったと思う。
バス会社先輩役(伊藤さん?)、それと食堂の女将さん役の人も、味のある彩りだった。

と、さも俳優陣にばかり注目しているように書いたが、じつは、この映画の真の主役は新藤兼人さん(脚本の)だと途中で嗅ぎ取った私だ。朝鮮戦争の件とか、もう全編にわたって濃厚な新藤色…………に、じつのところ有馬さんも佐田さんも自在な演技で応えているとは言い切れず若干の閉塞感が確実にあった。
映画というものの中には、もっと魔法が欲しいのだ。

「主役は新藤」をようやく打ち破ったのは、ラストの倍賞さん。弾けと抑制を何やら両呑み込みで含んでる演技のようだから、モギタテにして老成、というか末恐ろしいような…………。
「結末はきっとバスがこうなる」というのが私には随分早い段階でわかってしまった、にもかかわらず、最後、制作陣・俳優陣の狙い通りにいっぱい泣かされた。魔法成立!
エンドロールがないから、明かりがついた後も新たに少し泣いていた。