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座頭市あばれ凧のMASHのレビュー・感想・評価

座頭市あばれ凧(1964年製作の映画)
4.5
座頭市シリーズ第7作目。監督は前作と同じ池広一夫。前作の『千両首』はアバンギャルドな映像感は好きだったが、肝心のストーリーがおざなりになっている気がした。だが今回の『あばれ凧』は脚本家が変わったからか、シンプルな軽快さかつ市の闇を描いたストーリー、そして監督によるダークでどこか怖くすら感じる殺陣。今まで観たシリーズの中でも5本の指にはいるほど好きな作品。

前半での市はすごくチャーミングで、そして仁義を重んじる正義の味方だ。ちょっと可愛らしく描きすぎなすら気がする。だが、これにより彼の内面に迫る後半とのギャップが活きてくるのだ。自分の命を助けてくれた津向組ではニコニコしてかわいい市なのだが、人々を苦しめ自分にもひどい扱いをしてくる竹居組に対しては非常に冷たい。竹居組でもらったご飯を黙って部屋に撒き散らしたりするシーンなんかはどこかゾッとする。

良いヤクザを助けて悪いヤクザと対立するという流れはいつもの座頭市。だが、後半で彼は凶状持ちということが発覚し津向組を追い出されてしまうのだ。渡世に生きる市は普通の生き方はできないことを自覚していたが、人を殺しすぎたあまりに渡世ですら居場所を無くしてしまうのだ。だが、それでも津向組を皆殺しにした竹居組を許せない彼は復讐へと向かうのだ。残された己の仁義を通すために

最後の殺陣はいつもの西部劇調とは違ってどこかホラー調だ。音楽も相まって、暗闇の中で彼の姿を見て慄く敵の姿はまさに怪物に襲われた人間のよう。市もまた正々堂々戦わず闇討ちも平気でし、いつも以上に荒々しく剣を振るう。そして頭から血を流しながら安五郎を追い詰める姿はかっこいいというより恐ろしい姿だ。最後に花火の光に照らされた市の顔のアップで終わるが、その表情には怒りと後悔と悲しみが滲み出ている。

座頭市のテーマの一つとして「人との繋がり」がある。だが『あばれ凧』ではそこを重点的に描きながらも、彼が人を殺し続けてきたことでどこか人ならざる者となり、居場所を失った孤独な存在になっていくことが強調されている。この作品にライバルが登場しないのもそういう理由からかもしれない。殺陣は最後の大立ち回りを除けばそこまで際立ったものはないが、それが逆に座頭市が単なるチャンバラ映画ではないということを証明しているのだ。数ある長寿シリーズの中でも特異な立ち位置にいるのを改めて実感させられた。
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