茶一郎

ゴモラの茶一郎のレビュー・感想・評価

ゴモラ(2008年製作の映画)
3.9
集合住宅,子どもたちが遊ぶ隣で「警察だ!」とマフィアたちの怒声が響く。結婚式が開かれている階の上では,マフィアたちは警戒態勢に,今にも抗争が勃発しそう。
同じ住居の中に「日常生活」と「暴力」とが文字通り同居している。イタリアは南,これが「死都ナポリ」という街。

 ドキュメンタリックな手触りで描かれる,リアリズムの結晶。冒頭の日焼けサロンでの一幕から始まり,観客は突然発生する銃撃戦にただただ恐れおののくしかない。「女」「子ども」関係なし。
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 この街で繰り広げられる血と暴力の抗争,そしてそれに巻き込まれるマフィア以外の一般人。「昨日の敵は今日の友」であり,「昨日の友は今日の仇」でもある。それぞれ5人が絡み合い語られるのは,そんな「裏切りの物語」。
 不法廃棄される毒に汚されるこの地では,生き残るために法律や約束を裏切らなければならない。人間関係は,腐ったら,臭ったら捨てられる劇中の「桃」と同等であり,人間の命は「ゴミ」のようにブルドーザーで処理されていった。

 中でも印象的なのは,仕立て職人パスクワーレのエピソード。パスクワーレは,小さい頃から自分を育ててくれた工場長を裏切るように,中国人業者の職業訓練を秘密で請け負う。危険な地区を自動車のトランクに乗らされ行き来して,彼が最後に見るのは,テレビの向こう側で自分の作ったドレスを着てレッドカーペットの上を歩くスカーレット・ヨハンソンの姿だ。
 きらびやかなハリウッドの裏側に、この地獄のような街がある。ここで今作は,アメリカの芸能界という「虚構」を支える「現実」を描いた「虚構」として確かな強度を持ち始める。
『冷たい熱帯魚』のでんでん風に言うと「お前の考える地球ってのは丸くてツルツルして青いんだろ」というやつだ。実際の「現実」は青くない。

 マッテオ・ガローネ監督の次作『リアリティー』と合わせると,監督は「現実」と「虚構」の関係性についての物語を語る作家だということに気付く。
 もちろん,映画を見ただけの私が,そんな「現実」を知った気になってはいけない。でも確かに,この地球にはツルツルした所がある分,ゴツゴツと出っ張った部分がある。今まで散々に見せられてきたリアルな映像は,全てこの地球で起こっていることなのだ。
茶一郎

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