サスペンスの映画の金字塔。
クラッシック映画として年代を考慮したとしても、ミステリーの部分は途中でことの真相に予想が立つ程度の単純な謎解きだ。しかし、この作品の本質はそこには無い。むしろ「第三の男」が姿を現し事件の真相が明らかになってから物語が動き出すのだ。
二次大戦の傷跡が未だ生々しく残るウィーンの町を舞台に、オーソン・ウェルズ演じるハリーという男に翻弄される人々の心の揺らぎが情感豊かにフィルムに活写されている。ハリーの人を人とも思わぬ悪行を知った主人公のホリーは、彼の非道な行為を許せないのに、20年来の親友を裏切ることもできず、彼か警察かどちらに味方するのか決断を下せない。ハリーの元恋人のアンナは、彼の本性を知りながら最後までハリーを愛し続け、何とか彼を警察の手から逃がそうとする。社会に仇をなす悪党なのに、どこか憎めない人間的魅力に溢れたハリーという男と彼らはどう関係していくのかと、この人情劇の展開によって、物語は謎解きより緊張感を増すスリラーへと変化していくのである。