安堵霊タラコフスキー

第三の男の安堵霊タラコフスキーのレビュー・感想・評価

第三の男(1949年製作の映画)
4.9
恵比寿駅に電車が止まったりエビスビールのCMが映ると流れる曲がこの映画のテーマ曲だったと知ったときは結構驚いたけど、オープニングからいきなり流れるこの曲はツィターの音色のために何度聴いても不思議な味わいがあり、この曲だけでもこの作品が作られて良かったと思わせられる

そして曲単体でも独特なのに、国際問題的側面のあるサスペンスフルな作品で全編に亘り用いられているからそのギャップでまた一層不思議な印象が齎され、またそのことが逆説的に作品自体にも奇妙な雰囲気が生まれる相乗効果となっていて、本来使われるはずだったらしいオーケストラ音楽だったらこのような対位的効果は生まれなかったろうことを思うとアントン・カラスの音楽を急遽起用する英断を下したキャロル・リードは見事と言わざるを得ない

見事と言えば映像的にもカメラを斜めに傾けて撮った映像がとにかく鮮烈で、音楽と共にこの映画を他のサスペンス映画と一味違うものとしている要素の一つであるけど、音楽といいこんなコロンブスの卵的な撮影スタイルといい、この作品におけるキャロル・リードの実験性は本当に凄まじい

加えて中盤から満を持して登場するオーソン・ウェルズのカリスマ溢れる存在感と、ドイツ語圏が舞台だからかフリッツ・ラング的な陰影が目立つ終盤の各シーン、そして主役のジョセフ・コットンから何とも言えない哀愁が感じられるラストシーンと、中盤以降一度見たら忘れられない名シーンのオンパレードで、この映画の後半部は見る度に最高と思わされるから堪らない

パルムドールを受賞したりアカデミー賞候補になったりと、名実共にキャロル・リードの代名詞と化しているけど、改めて見てもやはりこの作品の出来がずば抜けていると思う