螢

第三の男の螢のレビュー・感想・評価

第三の男(1949年製作の映画)
3.8
陰影の使い方と、配置美といってもいいような、計算され尽くした細かな演出と映像が光る、サスペンス名作。
多くの人によって評価され、文章に起こされたあの超有名なラストは、結末を知っていてすら、胸に残る美しさと哀愁があります。
カメラワークの魅せる技をとことん楽しめる作品といってもいいかも。

第二次世界大戦直後のウィーン。米・英・ソ連・仏によって四分割統治され、市の中心部は共同統治として国際警察が置かれている。

友人であるライムから仕事を持ちかけられ、そんな混沌とした場所へとはるばる海を渡ってきた、売れない作家でアメリカ人のマーチンス。
しかし、ライムの家を訪れると、彼は前日に事故死したという。
彼は事故に遭った直後、一緒にいた友人である二人の男によって道路脇に身体を運ばれ、医師の到着を待たずにそこで生き絶えたという。

けれど、彼の体を運んだ男たちは三人いたという証言を、ライムのアパートの管理人から聞くマーチンス。

果たして、ライムを運んだ「第三の男」は誰だったのか。
マーチンスは、図らずも、ライムの恋人だった女優のアンナ、ライムを極悪人と断ずるイギリス軍のキャロウェイ少佐など、多くの人間と接触しながら、友人の謎に満ちた突然死の真相を探ろうとするけれど、彼の行く手を阻もうとするような殺人事件が起こり…。

友人を信じ、その死を探ろうとしながらも、次々に迫り来る展開と、明かされていく事実に、揺れ動くマーチンス。
何があっても、何を聞いても、ただただ盲目的に恋人に忠実であることを選んだアンナ。
彼らの行動を監視し、追うキャロウェイ少佐。
そして、それら全てを利用しようとして、最終的には破滅する「第三の男」。

複雑な事情を抱えて混沌とするウィーンを舞台に、物語は展開していきます。

本当に、光と影の使い方と、そして、細かな演出が憎い映画。
暗闇の中で浮かび上がる人影や、顔など、現代から見たら古典的な演出になっているはずなのに、それでも見惚れてしまう。

そして、一回目で映像を楽しみながらもストーリーを頭に入れて、改めて二回目を観たら、その徹底した演出と映像ぶりが改めてがよくわかりました。二度観ると、あっ、これ、あそこの伏線じゃん、とか、あのシーンとの対比じゃん、というのもかなりあります。

女が歩き去る、あの超有名なラストは勿論のこと。
真相にたどり着いたマーチンスと「第三の男」が最後の最後に見つめ合う瞬間、袋小路に追い込まれた第三の男の醜く蠢く指先、そして、真相のわからないままの銃声、といった演出などもものすごく巧みで、胸に残って仕方がないです。

一度は観てよい、まさに名作ですね。
個人的には、三度目も多分観ます。
螢