めしいらず

第三の男のめしいらずのレビュー・感想・評価

第三の男(1949年製作の映画)
5.0
戦後のウィーンは4つの占領国の思惑がせめぎ合う不安な政情。機に乗じて暗躍する悪漢ハリーの魅力と、そんな友が許せない毒にも薬にもならない正義漢ホリーの凡庸さとの鮮烈な対比。二人の名前の相似は一人間の表と裏を暗示しているよう。二人の間で揺れるアンナが言った2度の「可哀想なハリー」の意味の違いが象徴的だ。三様の役柄を演じたウェルズ、コットン、ヴァリの圧倒的な名演。悪戯っ子が見つかったような表情が絶品のハリー登場。一瞥すら与えず立ち去るアンナの強烈な頑なさと、どんなに尽くしても徹底的に報われないホリーのみじめさ滑稽さが交わるポプラ並木のラスト。年齢を重ねるとホリーの悲哀がより沁みる。それら加えて原作者グリーン自身が脚本を書いた物語の面白さのこと。カメラアングルと陰影を意識的に強調した撮影による観覧車、カフェでの待ち伏せ、街での、下水道での追いつ追われつなどのどこを切り取っても最高にクールな映像のこと。それには戦争の傷跡が未だ生々しく残る当時のウィーンという舞台背景がもたらす効果も大きいだろう。そして時に軽妙、時に悲哀など様々な表情を聴かせる最高の音楽のこと。もう言われ尽くしたそのことをあえて重ねて言いたくなってしまうほどにやっぱりそれらは魅力的だ。映画史に残り続ける古典的名作と呼ばれる作品の中には「なぜこれが?」と思うものも意外とあるけれど、本作は非の打ち所ない完璧さを示して余りある正真正銘の名作だと思っている。
再…鑑賞。
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