東京キネマ

マイ・シネマトグラファーの東京キネマのレビュー・感想・評価

マイ・シネマトグラファー(2004年製作の映画)
4.2
オールド・ムービー・ファンであれば一度は聞いたことのある名カメラマン、ハスケル・ウェクスラーのドキュメンタリーです。

“Tell Them Who You Are” という原題の通り、“あんた、どんな人なのか、ちょっと話してよ” というコンセプトで、息子であるドキュメンタリー作家のマーク・ウェクスラーが監督しております。 何が凄いかって、インタヴューを受けている人たちの豪華なこと! いちいち名前は列記しませんが、これだけ錚々たるメンバーがマーク・ウェクスラーを語っているということは、彼の業績がどれだけ映画界に影響を与えているかの証明だろうと思います。

良いカメラマンだったってのは知っていましたが、この人のキャラクターが本当に面白い。 ある意味、メチャクチャです。 本来であればどこにでも居るカメラ小僧だったんでしょうが、幸か不幸か親が大資産家です。 普通であれば下積みからスタートする筈なんですが、碌なキャリアもない内にエクレールのカメフレックスなんか買ってもらっちゃったもんで、若い時に既にいっぱしのドキュメンタリー作家気分。 こんな贅沢が出来たからこそ 「シネマ・ヴェリテ」 も自分の撮影スタイルに出来たんでしょうが、よせば良いのに撮影スタジオまで親掛かりで作ってしまい、そして見事に倒産。 カメラマンとしての実績を作る前に、人の一生分以上のお金を使い倒してしまいました。

資産家のバカ息子で贅沢三昧の青春期を過ごした人に良くあることですが、この人も見事にサウスポー。 バリバリのコミュニストで御座います。 このドキュメンタリーが面白いのは親子の立ち位置の違いというか、関係がちょっと微妙で、それが妙にこのドキュメンタリーの味になっている所でしょうか。 親子の確執もあるようで、親父の方は息子が如何にヒドい親父かってのを映画にしようと思ってんだろうと構えていますし、息子は息子で親父と同じ仕事に付いてしまった自分のアイデンティティー探しという安易なアプローチでドキュメンタリーを作ろうとしたもんで、親父からは見事に見透かされています。

“お前が俺をこき下ろす映画になるかも知れないのに、完成する前にサインなんか出来るか” と最後まで契約書にサインしません。 息子の方は作り始めた映画なんで、どうすりゃいいんだ、って逡巡のしっぱなし。 ジェーン・フォンダには“有名人の家系に生まれた者はその事実に苦しむわ。 親の名も自分の一部と理解することが大切ね。 許してあげなきゃ、親を”なんて諌められています。 (ヘンリー・フォンダとの確執を考えると、彼の比じゃないですからね)

とにかくこの親父は名カメラマンだけあって撮影している最中もうるさいうるさい。

“お前はインタヴューしてからアングルを3度変えた。お前は天才か? それともただのヘボか?”

“彼らのコメントで、安易に私の人物伝なんか作るんじゃないよ”

“お前にとってはその程度なのか。画が必要なのか?、内容を求めてるのか? こんな映画を撮って何か意味があるのか?”

などなど、本人はドキュメンタリー作家としての自覚がありますから、指摘は半端ありません。

名カメラマン故か、どうしても演出に口を出す癖が直らなかったようで、『カッコーの巣の上で』 ではミロシュ・フォアマンとことごとく衝突してクビになってますし、“腕は確かだけど、我が強すぎて好きになれない。 もう二度と使わないよ”(エリア・カザン)、 “最悪だよ、彼は作品を自分の支配下に置きたがる。 カメラマンなのに監督の意識が強過ぎる”(ノーマン・ジェイソン) といった批判も何のその、 “関わった仕事はすべて自分の作品だと思ってる。 むしろ私が監督すべきだったと思ってるよ” と屁にも思っていません。

嫌われ者同士のいちゃもん付けという感じもして見ていて微笑まし限りですが、こういった業界の鼻つまみっぷりが見事です。(笑) アルツハイマーになった元妻を見舞う泣けるシーンがあったり、本人はなんと色盲であることもバラしてますし、それに、撮影時81歳の高齢であっても仕事を貰う努力もしていて“面接で、予算が少ないなら安くやるよ、なんて言いたいけど、そんな事は実際は無理。あなたに服従しますよ、って言うだけで精一杯だよ”なんて殊勝なことも言ってます。

カメラマンのドキュメンタリーなんてただの自慢話にしかならないだろうと想像していたのですが、いやいやどうしてどうして、なかなか魅せてくれます。 映画のバックステージものに興味のある方には必見のドキュメンタリーじゃないでしょうか。