あらた

息もできないのあらたのレビュー・感想・評価

息もできない(2008年製作の映画)
5.0
韓国ノワールの大傑作。
韓国社会の底辺に生きる若者たちの苦悩とささやかな希望を描く。
いやー、凄かった。130分間、圧倒された。

徹底的に人の弱さを描いて描いて描いて描き切ったその先に、かすかに残る人の強さを浮かび上がらせるような映画。
特に印象的だったのは、この映画の暴力が全て「弱さ」に起因するように描かれていることだ。
弱いから暴力に走り、暴力を振るうことでより一層弱い立場に陥っていく。
そんな暴力と弱さの悪循環の中で、登場人物が螺旋状に不幸へと堕ちていく。
女子高生ヨニとの触れ合いや父に対する思いの自覚などを通してようやくその悪循環から逃れる決意をした主人公サンフンに訪れる結末も残酷過ぎて、胸がかきむしられるようだった。
こうなるだろうという予想はついていたけど、話が嘘になってしまっても幸せにしてやってほしかった。

もちろんサンフンとヨニを始め、役者の演技も素晴らしかった。本当にこの人がそこに存在しているようにしか思えない。
映像表現としても、全てを具体的かつ即物的な絵として示していて、実に映画的で良かった。

ちなみに、この映画に登場する父親はみんな弱さゆえに家族に暴力を振るう存在である。これが監督個人の問題意識なのか、韓国社会が抱える問題なのか、とても気になった。
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