継

フォッグ・オブ・ウォー マクナマラ元米国防長官の告白の継のレビュー・感想・評価

4.5
勝利(第2次大戦)、回避(キューバ危機)、敗北(ベトナム)と, 異なる戦果の裏側に携わり,歴史を創り上げてきた男.
JFK〜リンドン・ジョンソン政権下で国防長官を務めたロバート·S·マクナマラ.

ハーバード大教授, フォード社長, 国防長官, 世界銀行総裁などを歴任したエリート中のエリート.
第2次大戦では彼のReport(経営管理の理論を米軍の戦略へ実践応用したもの)が広島・長崎への原爆投下や各都市への大空襲を後押しした事もあり, 日本とも因縁浅からぬマクナマラ.
御年85歳にしてこの男が回顧したその内幕とそこから得た教訓とはー.


質問に答える形式のオーソドックスなドキュメンタリー。
だけれどインタビュアーは映さず, 当時の映像を挿し込んで回想に見立てたりと「独白」に近い演出がなされてました。
不穏な時代の空気を伝える,音楽はフィリップ・グラス。控え目な正にFog(霧)の様な響きはマクナマラの発言を浮かび上がらすようでもあり, 時にその霧中へ消え入らすようでもあり。。


元々は破綻寸前のフォード🚗を立て直した凄腕ビジネスマン。
産業界出身らしく何より数字,コストを重視し “Human Computer” と呼ばれた男。
本作では紹介されませんが, ベトナム戦争(初期)で兵士一人当たりの育成に米軍が5万㌦も費やすのに, ベトコンは100㌦しか使わないのでキル・レイショー(=投資額に比較した敵の殺傷率)が合わないと, 人命をドル換算して正規軍投入を主張したエピソードがその思考の何たるかを物語る。

戦争の時代に,米軍の最高司令官を務めた男が抱えた苦悩。
JFKやジョンソンとの国の意思を決定する生々しい会話(電話会談の音声記録✇)には切羽詰まった緊張感がみなぎり, 時代の熱量を伝える。

敬愛するJFKを語る際には楽しげに表情を崩すが, その死を語る際には感極まって目を潤ませ声を震わす。
悉(ことごと)く衝突した挙げ句に自身を解任したジョンソンへは流石に辛辣な言葉を吐くが, そのジョンソンから不意に優しい言葉を掛けられて感激し言葉に詰まるシーンなど人間的な側面も紹介。


JFK暗殺後は辞任するつもりでいたが, 政策遂行の為とボビー(ロバート・ケネディ)に慰留されて留まった長官の座。
泥沼化するベトナムの戦局と反戦世論の矢面に立たされ “戦争屋” とメディアに批判された当時の心境/立ち位置が, 彼にとって如何に不本意で居心地の悪いものであったかが,歯切れの悪くなるその口調の端々からこぼれ落ちるようだった。

本作はそんなマクナマラを肯定も否定もせず, 彼の言い分を概(おおむ)ね聴き入れては時に相対する意見を投げ掛けて突き放し, 一定の距離を取らんとします。

彼が紹介する教訓の1つ “Emphathize with your enemy (=敵の身になって考えよ)” は, キューバ危機の際にケネディとフルシチョフが直通電話で話し合って互いの立場を理解した事が武力衝突回避に繋がった事に由来しますが,
この教訓が半世紀以上を経た現在も有効に思え, トップ同士の腹を割ったコミュニケーションが今こそ求められるウクライナの現状は何とも愚かな事です。
継