よしまる

そして人生はつづくのよしまるのレビュー・感想・評価

そして人生はつづく(1992年製作の映画)
4.8
 何から何まで面白くてぐうの音も出ない。

 3部作とされていて、第1作で撮影した村が地震に見舞われたため、安否を確認しに現地へ向かう映画監督、という、設定。

 実際に映るのはもちろん監督自身ではなく俳優さんだから、ドキュメンタリーでは無い。また、前作に出演した俳優さんも出てくるが、これも俳優として演じているので、この映画自体はメタフィクションとして描かれる。

 そうした映画のレトリックを駆使して、 観る者を(1作目を観ていることが大前提となってしまうのではあるけれど)主人公の映画監督と同一の目線で作品世界に没入させておきながら、時に突き放したり、時に包み込んだりと見事に翻弄する。そして最後にはやはり大きな希望を伴って、一切のネガティヴを振り切って終わらせる。
 見事としか言いようがない。

 調べてないから想像だけれど、当然1作目を撮ったときには地震なんて予測していないわけで、もし震災がなければこの映画は生まれていなかったはずじゃないのか?

 だとすると、本作の主人公と同じように、地震の後にとにかく行って見てみなければならない、どんなに困難であろうと何とかなる、その信念でロケを敢行し、作品を作り上げたに違いないし、それをこのような形で…例えば生々しいドキュメントだったり、空想に過ぎるあざとい感動巨篇だったりとはまったく異なる…地に足のついた、リアルな風景、そして人の営みを切り取ることで、村に住まう人たちそれぞれの想いを綴り、生きる糧を探してゆく。これぞまさに「人生は続く」だ。

 意図せず生まれた続編であったとして、こんなにもトリッキーで洒落が効いていて、最後には笑顔にさせるこんな映画を撮れるのは唯一無二の存在かもしれない。
 もちろん、その真価は続く3作目でさらに発揮されるわけだけれど、とりあえずアッバスキアロスタミ。まだ時々言い間違える。ごめんなさい。