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女の園のakrutmのレビュー・感想・評価

女の園(1954年製作の映画)
4.3
封建的な規律で学生たちを束縛する正倫女子大学を舞台に、自由を求めて大学の民主化を目指す学生たちと、良妻賢母の養成を理想とする大学の対立を描いた、阿部知二の小説『人工庭園』を原作とする、木下惠介監督の代表的な作品。本作が公開された1954年は、60年代の安保闘争や学園紛争よりも前であるが、学生運動はすでに盛んになっている頃である。しかし、本作で描かれている闘争には政治的な意味合いは表面上は薄く(でも共産党という言葉が女子学生の会話の端々に出てくるので、暗に政治的な意味合いはあるかもしれない)、女子大生の自由な生活や恋愛への希求が描かれている点に独自性が見られる。批評家の評価も高く、同じ年に公開された同監督の『二十四の瞳』とともに、黒澤明監督の『七人の侍』を抑えて、1954年のキネマ旬報ベストテンの1位、2位を独占している。『二十四の瞳』とともに、おすすめの作品であろう。

確かに、大学の対立する学生たちの動機はバラバラなのである。高峰秀子演じる芳江は3年ほど社会人を経験した後に入学したので(それでも年齢的にちょっと学生役は無理があるかも)、授業についていくための勉強時間も早い消灯時間のために確保できず、東京の大学で学ぶ恋人(を演じる田村高廣は本映画がデビュー作)との文通も自由にすることができない状況に閉口する。芳江と同室の、岸恵子演じる富子はスポーツや恋愛にエンジョイするきゃぴきゃぴ(?)の女子学生であるが、門限破りで罰を受けたことに不満が爆発する。一方で、久我美子演じる高学年の明子は、学園の民主化という理想に燃えて学生運動を首謀するが、実家が大学の大口スポンサーであるために学校からは特別扱いされているとともに、共産党員であると噂されている。また、学生運動の中心である山本和子演じる敏子の得体のしれなさも不気味である。

一方の大学側の登場人物もなかなか濃い。とにかく凄いのは、高峰三枝子演じる寮母の真弓。学生たちに見せる意地悪さが強烈であるとともに、相手によって態度を変えるカメレオン的な振る舞いも印象的。金子信雄演じる学生指導教員のどっちともつかない態度もなかなかのものである。

以上のようにキャラが立っている登場人物たちが紡ぎ出すストーリーはなかなかの見ものである。前半は学園闘争と恋愛が混在したプロットから少し散逸な印象を受けたが、ラストに訪れる悲劇によって一気にプロットが収束して頂点に達するのは爽快でさえあった。
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