collina

地下水道のcollinaのレビュー・感想・評価

地下水道(1956年製作の映画)
5.0
8月1日に観ました。
なぜなら、ポーランドではワルシャワ蜂起の日であるからです。
ワルシャワでは、サイレンが鳴らされます。

ワイダの作品は後期作品に比べて初期作品は鑑賞機会が限られ、ずっと観たいと思っていた今作を、Amazon PrimeのシネフィルWOWOWチャンネルがキャンペーンを行っていたので、ようやく鑑賞する機会を得ました。

前も後ろも敵に囲まれ、唯一の逃げ道は地下水道のみ。
しかし、地下水道に入ってしまえば、上に出ても出なくても、待ち受けるのは地獄。地下水道で、もはや人間は人間ではなくなる。地獄から地獄へと落ちてくる人々、我を失うもの、生き残るために人を欺くもの。人間であろうとすれば、命を落とす。隊長の姿は頭から離れない。1人の男が膝から崩れ落ちる姿、見つめる少年の眼、死を選ぶ彼女。何人もの顔、瞳、姿が頭から離れない。

その状況下でワイダが撮るデイジーはあまりにも清廉で美しい。「身の上話をさせるの?」と語り、決して恋人に想いを告げることなく生き抜こうとするデイジー。地下水道で彼女のブロンドは、あまりにも眩しい。強く優しい嘘をつくデイジーの視線の先には、ぼんやりとした灰色のヴィスワの対岸。そこにいたはずである、炎に包まれるワルシャワを見つめたまま、動かぬソ連軍。共産党の検閲を通すため、明確な描写は許されず、ワイダはポーランドの人々を信じ、デイジーの瞳に託したのでした。

あまりにも絶望的なのにあまりに力強い。
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