三樹夫

広島仁義 人質奪回作戦の三樹夫のレビュー・感想・評価

広島仁義 人質奪回作戦(1976年製作の映画)
3.6
もはやヤクザも取る取られるの時代じゃなくなって、経済ヤクザの時代に突入し生き残りをかけて貪り合うという、仁義なき戦いの後ぐらいが舞台となっている。
8年の刑期を終えて出てきて、ヤクザから足を洗う決心をした松方弘樹が主人公で、足を洗う理由は妻である中島ゆたかのためであるが、数少ない子分には頼りにされるためヤクザをきっぱりやめることに一抹の躊躇いがある。ここまでが冒頭の何分かで、ここまで観ていてヤクザをやめたいと思っているけど、仁義やらしがらみやらでやめることができないという感傷的な話になるのかと思っていたら、凡人の発想の上を行く東映映画なので、主人公がヤクザから足を洗って何をするのかというと総会屋で、しかも結構ノリノリで総会屋やってるという、それ足洗うといえるのか。松方弘樹が総会屋になるといえば暴力金脈があるが、あっちは総会屋で成り上がっていくアゲ感をぶちまける不良性感度ばつぐんのアナーキーさだったが、この映画は任侠映画的なリリカルさと、実録路線的なアナーキーさとをコンクリートミキサーにかけてぶちまけて、結局あまり噛み合わず中空飛行で終わる。

この映画の監督は牧口雄二で、牧口雄二の代表作といえば徳川女刑罰絵巻牛裂きの刑だが、実際には抒情的な演出を得意とし、牧口雄二の本質は引き裂かれた尼僧の雪のシーンにあると思う。この映画でも松方弘樹と小林旭との関係にそのリリカルさが発揮されている。松方弘樹の新居に小林旭が訪ねてきて、よっとお互い挨拶するシーンなどは、よっの少ないワードの中に複雑ないくつもの感情が込められており、切なさを刺激し観ていてリリカルな気持ちになる。他にも、今は総会屋の野良犬や、組織に入らん一匹狼は飢え死にするだけなど、日常生活で一度は言ってみたい台詞が有ったり、中島ゆたかが超絶美人など、部分部分で観れば良い映画なのだけれど、全体的には噛み合わせが良くないので、リリカルなトーンで統一するか、総会屋として成り上がっていくアゲ感で不良性感度を刺激するかのどちらかひとつでいっていたならと思う。
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