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悪人のjiroのレビュー・感想・評価

悪人(2010年製作の映画)
4.2
殺人犯と、彼と偶然出会った女の逃避劇。
逃げ切れないのは分かっているのに、離れられない。もう一度出会う前の孤独に戻るくらいなら。。一緒にいればいるほど苦しくなる。。

ラスト10分間引き込まれた。
初めて観たときはまじか、、で終わってしまったけど、2人の思いとか、被害者の親、加害者の祖母の心情の変化をじっくり振り返ってみると色んな感情が湧き上がってきた。
『怒り』の観た終わった時に感じた言葉にできないもやもやのような、心をえぐるあの体験を思い出した。


主題歌のyour storyの歌詞にある、
「We both have lied and kissed, a sad good-bye」というフレーズがこの映画のラストを全て物語っている。この曲全体の歌詞がかなりマッチしているので是非聞いてみてほしい。「あなたの深い愛は心の中に生き続けるから。でもあなたは僕のことを忘れてくれ。」先に出会っていれば、違う未来が待っていたのに。観てから1週間経つが、思い出す度に悲しいラストだ。。


結局タイトルの悪人が示すのは誰なのか?というのは僕の中では問題ではなく、結局殺しが一番ダメだよねとかでもなく、全ての人間は善人と悪人の両極端で語れるものではなく、気分とか置かれた状況によって簡単に変化してしまうし、グラデーションの問題ではないかと思う。清水は悪人ではなかったし、男を引っ掛け遊んでいた佳乃の方が余程悪人だったし、ただ殺しという一度の過ちでそれが逆転してしまったというだけの事である。性善説か性悪説かみたいな題材は怒りにも通じるところがあったかな?
それにしても佳乃めんどくさいやつだったな。笑


清水は出会ってすぐホテルに誘っちゃうようなやつだけど、田舎の閉塞感がそうさせたとも言えるし、悪いやつとは思えなかった。ただ鑑賞者に清水への同情を誘う善人エピソードを別に組み込んでは欲しかった。笑
加害者家族と被害者家族のことも描く必要があったからその時間がなかったのだろう。
原作ではその所がきちんと描かれてるいるようです。

光代も清水と同じく田舎の閉塞感を抱えており、2人は意気投合するわけだけど、その流れは今思えばけっこう急だった。出会い系で会ったばかりの男を匿う心理が分からないと言ったらおしまいだけど、これが吊り橋効果の威力だろうか。

誰が一番悪人か強いて言うならば、僕はマスコミじゃないかと思う。土足で人のところへ踏み込み、センセーショナルな報道をする。死んだ佳乃は、孤独を感じていたから出会い系にハマったと想像で語る。死人にも人権はないのだろうか、死人こそ扱いを重んじるべきだと思う。結局マスコミがどう報道しようが、真実を語ることはできていないし。バスの運転手さんが「あんたは悪くない」と清水の祖母に言う場面があったが、本当にその通りである。

「今の世の中大切な人がおらん人間が多すぎる。失う人間がいないから、なんでも出来ると思って失った人や欲しがる人を笑う」
佳乃のお父さんのセリフだけどこのセリフがかなりぐさっと来た。他にも柄本明さんが良いこと言ってました。あと宮崎さんの泣き演技も良かったな。嗚咽とかがリアル過ぎて、クイズできるおばちゃんのイメージがかなり変わった。笑

2時間で色んな要素が無駄なく組み込まれていて李監督の凄さを改めて感じる作品だった。怒りも振り返って観てみよう。
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