NAOKI

大逆転のNAOKIのレビュー・感想・評価

大逆転(1983年製作の映画)
3.8
高校生が大いばりで夜まで学校にいることができる…そう文化祭の準備期間…

たいしてやることもないのに友達とくっちゃべりながらダラダラ準備してるうちに夜も更けていく…

駅まで走ったのだが終電に乗り遅れてしまった…
携帯なんてなかった時代…公衆電話から家に電話して「どうしても終わらないから今日は学校に泊まる」と嘘をつく。
もちろん学校は泊まることなんて許さないから今ごろは施錠して入れなくなってるだろう。

駅で夜を明かすことに決めたのだが朝晩はけっこう寒い季節だった。
深夜…日付も変わろうかという時間…駅の外が賑やかになってきた。
その駅はけっこう大きな駅で周辺には段ボールハウスがたくさんあって浮浪者(ホームレスという言葉も当時まだなかった)の方々がいっぱいいた。

そのホームレスの方々が火を起こした一斗缶を囲んで座り飲んだり食べたりしながら楽しそうに話をしている。

おれは待合室のベンチの隙間から恐る恐るそれを眺めていたが…何やら暖かそうだし楽しそうだし…

いつしかおれは待合室から出ると少し離れたところから浮浪者たちの夜の宴会の様子を眺めていた。

「おい!若いの…そんなとこ突っ立ってないで…火の近くに来なさい!」
突然…髭ゴジラ(古い!)みたいなおっさんに手招きされた。

近くに来たおれの顔を見たおっさんは…
「なんだ?新入りかと思ったら学生さんか…終電に乗り遅れたのか?」
おれが頷くと…
「○○高校か?竹本先生はまだいるか?」
いきなりホームレスのおっさんの口から技術の教師の名前が出たのでおれは仰天した。

「ありゃおれの教え子だぁ!がっはっは」
おじさんの鼻の頭は酒やけで真っ赤になってて「あんたはジャッキーの師匠か?」と心の中で突っ込んでいた…

「ほんとですか?」
教師の教師がなぜ今高校の最寄り駅でホームレスしてるのか?
人生色々なんだな…で無理矢理納得するしかなかった…

「終電逃したならもうじたばたしてもしょうがねえ…座れ…さぁ飲め…さぁ食え…」

おじさんたちのすえたような臭いが気にはなったが、なんだか分からない食べ物や飲み物はめっぽう旨く…おじさんたちの話はめっぽう面白くて…火は暖かかった…

歩道に引っ張り出したあちこち破れた革張りのソファーに座って一斗缶からチロチロ漏れる炎を見ているうちにおれは眠くなってきた。 

平成も終わろうかという今…考えるととんでもないことだが…昭和のあの頃…殺伐としてるようでどこか今よりおおらかなのんびりした不思議な時代だったと思います。

「大逆転」
原題…トレーディングプレイス…場所を入れ替える。

足がないという最低の擬装障害者を演じて小銭をせびるホームレス…エディ・マーフィーを見たふたりの金持ち老人…議論になります。

「ホームレスに成り下がるっていうのは、生まれついての遺伝なのか?はたまた環境がそうさせるのか?」

議論の末、いくらかの金を賭けて実験してみようということになります。

このどうしようもないホームレス・エディと自分達のところにいるエリート中のエリート…ダン・エンクロイドを策略を駆使してそっくり入れ換えてしまう!

さぁどうなるか?
ガンガン実力を発揮しだすエディと堕ちるとこまで堕ちていくダン…このふたりの好演も相まって面白いのなんの!
あっと驚く結末までこんなに面白くていいのか?って感じでした。

監督のジョン・ランディス…なんか不幸な監督ですよね。
マイケルのスリラーのPVの製作はもちろん、その映画作品群はおれの青春時代には欠かせない人なんですが、度重なる不幸な事故や訴訟…
自業自得って面も少し見えて、彼こそが生まれついての遺伝かか環境か?…と言いたくなるような破天荒な監督です。

駅の向こうの山々の稜線が朝焼けに輝き出した頃…おれは汚いソファーで目を覚ました。
回りには誰もいなくてホームレスの皆さんは自宅?の段ボールハウスに帰宅してるみたいだった。おれはちょっとごわごわした毛布にくるまってて暖かかった。
そこにホームレスのおじさんが一人やって来て…
「カシミヤだよ」
と言った。
「当…段ボールホテルの朝食はバイキング形式となっております…がははは」

食パン一枚と湯気をあげてる鍋から豚汁をいただくとすっかり体が暖まった…始発電車が滑り込んで来て…駅にまた人々が増えはじめた。

おれはホームレスのおじさんたちにお礼を言って、また高校に向かった。
「学生!しっかり勉学に励めよ!」

おれの体験が映画「大逆転」みたいに面白かったのはここまで…その後おれは「現実」というものを知る。

数日後…駅を出てあの朝のおじさんたちに挨拶すると…おじさんたちはじろりとおれを見て道端の石ころみたい無視した。

高校生のガキだったおれはホームレスのおじさんたちと仲良くなれたことをまるで自慢したいくらいに思って調子に乗っていたが、あの一夜の出来事はたまたまマジックが起こったファンタジーみたいな夜だったんだ…

おじさんたちの目は…
「あんときはよかったけど…それ以外のときはお互いに挨拶なんか交わしちゃダメなんだよ…おれたちとあんたは無関係…その方がお互いの身のため身のため…」
そう語ってた。

そんな機微が分からないなんて自分はなんてガキなんだろうと思った。

また…いつかあの夜のようにみんなで楽しく火を囲む夜が来るかな?なんて思ってたある朝…

役所か警察か誰がやったか分からないけど、駅の周辺からあんなにたくさんあった段ボールハウスが綺麗さっぱり消えてなくなっていた…

ホームレスのおじさんたちとはそれ以降会うことはなかった。
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