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誰も知らないのabeeのネタバレレビュー・内容・結末

誰も知らない(2004年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

【誰も知らないふり】

邦画はあまり好んで観ないので「面白そうかも」と思っても鑑賞はいつも後回しになってしまいます。
チャンスを頂き、ありがとうです。

一昨年「万引き家族」でその名を全世界に轟かせた是枝裕和監督。
そして本作は主演の柳楽優弥がカンヌ国際映画祭にてその演技を高く評価されました。

母の育児放棄により父親の違う4人の兄弟が身を寄せ合い生きる、そんな様子を何気ない日常を切り取り描いた作品。

この作品はテーマがとても重たいのにも関わらず優しい場面ばかりを切り取り描かれている印象があります。
ただ、そんな温かなシーンの間に厳しいシーンがコンパクトに挟みこまれるので、逆に辛い部分が非常に印象に残る演出になってると思います。
でも、これは是枝監督のリアルを追求する日常の切り取り方なのだと感じました。
悩んでいる時間よりなんてことない時間の方が現実は圧倒的に長い。
私も給料来月から減ってしまうのにカードの支払いがめっちゃくるしどうしようと悩んでいても、次の瞬間には「あ、この番組面白そう」とか「今日の夕飯どうしよう」って考えてますからね。

母親の視点を一切排除することで母親への感情移入がほとんどできないようにし、あくまで親の身勝手で過酷な生活を強いられる子どもたちの現実をリアルに描き出していると思います。

これは現代版の「火垂るの墓」だと思います。
私は正直「火垂るの墓」嫌いなんですがね。
今作の素晴らしいところはやっぱり主役を演じた柳楽優弥。
長男として兄弟を守らなくてはいけないという責任感と母を信じたい子どもの気持ちをセリフではなくその演技だけでしっかり魅せるのです。

母親の視点は一切排除されてますが、一箇所だけ母親が眠りながら涙を流すというシーンがあります。
母親の抱える不安と孤独が見える唯一のシーンなのですが、これが効果的。
そんな母の姿を目にした長男は育児放棄の被害者でありながら、母の孤独と寂しさを知る理解者となり、母を裏切れないという心理が働いていることが伝わってきます。

この作品はセリフがそんなに多くないにも関わらず入ってくる情報がとても多い。
それはキャストの演技と演出がやはり特筆して素晴らしいから。

お金がない。
電気が止まり、ガスが止まり、水道が止まる。
家賃を滞納し、汚い服で近所のスーパーにやってくる。
公園で毎日水を汲む。
大人たちは気づいているのに誰もが彼らから目を逸らす。
誰もが彼らを見ないようにしているだけなのに、当の本人たちは「誰も知らない」のだと思いこんでいるのですね。隠し通せていると思っているのです。

ということで、監督の敏腕さがとても伝わってきた作品でした。
ただ、「火垂るの墓」同様好きな作品ではないですし、恐らく二度と観れないです。
私は幼い兄弟を守らなくてはいけないというその強い気持ちがあるのであれば、彼の選択はやはり間違いだと思います。
でも「火垂るの墓」以上に閉ざされた狭い世界でしか生きることを許されなかった子どもたちにとっては他に選択肢は無かったのかもしれないと思うと、余計に辛いものがありました。
そんな世界をとても温かい筆致で描いた本作は、私にとってはとても残酷に感じられたのです。
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