しゅん

気狂いピエロのしゅんのレビュー・感想・評価

気狂いピエロ(1965年製作の映画)
4.0
大して本数も観てないから断言はできないんだけど、正直いってゴダールが嫌いだ。少なくとも60年代のゴダールは。好みで言ったらロメールやリヴェットやドュミの方が好き。昔は難解なのが苦手だと思ってたけど、そうじゃなくておそらくゴダール映画から伝わる男性性が嫌なのだろう。

ぼくはほんの数年前まで映画自体嫌いで、同じ映画を複数回観ることもほとんどなかった。そんな中、唯一5回以上観ている映画がこれ。好きだからではなく、わからないから何度も観た。名作をわからない自分がカッコわるくて何度も観た(そんな風に考えている時点でカッコわるいのだが)。

5回観ればさすがに話の筋は追えるし編集の意図もなんとなく伝わってくるから退屈することはない。男女のすれ違いを、映像の切り刻みや意識的にズラした音楽の挿入で表現しているのが秀逸だ。冷戦、アルジェリア戦争、ケネディ暗殺、ベトナム戦争、5月革命、月面着陸などなど混乱と狂騒を極めた60年代の匂いを封じ込めたという意味でも素晴らしい。だが、男性と女性の差異ばかりを強調して、マッチョなロマンチシズムを振り回すのには辟易とする。男は言葉と思想、女は音楽と感情?勘弁してくれよ。ステレオタイプにもほどがある。だいいち、離婚した妻を使ってこんな映画を作るなんてどこまで女々しい男なんだ。

…しかし、立ち止まって考える。結局自分も同じ穴のムジナなのではないかと。フェルディナンの最後の一言はめちゃくちゃカッコ悪いけど、笑い飛ばすには重たすぎる。どこまで遠いところまでいこうとしても、性的な嫌らしさ、気持ち悪さから自分を切り離すことは出来ない。そのことを嫌というほど思い知れされるから、ゴダールが嫌いなのかもしれない。哀しくなるほどダサくてカッコわるいピエロはぼくじゃないか。

鮮烈なイメージと醒めた認識を観客に伝えるこの映画はやはり圧倒的だ。『オイディプス王』や『ハムレット』のように人間自体を規定するくらいの神話的な力があるかもしれない。だからこそ、『気狂いピエロ』は嫌いな映画だと言っておきたいです。

オリジナルのフィルムがないのは残念だけど、はじめてスクリーンで観れて大満足。有名すぎるラストシーンはやはり絶品でした。公開から50年経ってるのに監督も主演男優も主演女優も存命なのには驚く。
しゅん

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