人殺しは英雄では無い。
人殺しは人殺しだ…。
その罪の重さは拭える
ものではない…。
「許されざる者」
クリント・イーストウッド監督、主演。90年代に入り、既に絶滅危惧種となった西部劇への鎮魂歌を奏でる名作。
嘗て名うてのアウトローとして西部に名を馳せたガンマン、マーニー。彼は愛する妻により、真っ当な人生を送っていた。だが妻を病気で失い、二人の子供との生活のため、若き賞金稼ぎキッドの話に乗り、嘗ての相棒ネッドと共にある町へ向かう。その街には傷つけられ、その相手に賞金をかけた娼婦たち、暴力には暴力で向かう保安官がいる町だった。
リアリティ
あらゆる場面でリアリティが尊重されており、従来のヒーローものである西部劇とは一線を画する作劇が素晴らしい。
老成したアウトローであるイーストウッドが馬に中々乗れないと言うシーンから、おや?と思わせる。序盤の血気盛んな若きアウトローがどうやら近眼らしいと言う演出からもそれは見て取れる。イーストウッドも年を取れば、酒場でステゴロで負ける。風邪も引く。また銃は簡単に当たらず、人は直ぐに死なない。
そして何よりも、人を撃つ恐怖、人を傷つける恐怖がリアリティを持って描かれている。簡単ではないのだ。人の生き死にはと…。
だが…今作がそこ迄リアルを引っ張りながらも…
「ドンとレオーネに捧げる」
と言う嘗ての師、イーストウッドが世に出る切っ掛けを作ったマカロニウェスタンの巨匠二人に捧げられたのは、ラスト20分の展開が余りにも美しいからだろう。それはまるで東映ヤクザ映画の傑作「昭和残侠伝」ばりの鬱憤を晴らすかの如き展開。貯まり続けた悪を悪で征するダークヒーロー、アンチヒーローとなる瞬間。それはマカロニウエスタンの泥臭い剥き出しのセリフや行動にも繋がっているはずだ。このセリフに代表される様に…。
「俺に銃を撃った奴は必ず殺す、親、子供ともにだ!更に家に火をつける。娼婦を人間扱いしろ!」
マーニーを演ずるイーストウッドは何年も待ち、自分が老成してから、作成しただけに、その情けなさや人臭さを持ち、過去の傷から真っ当に生きたいが、それが出来ない複雑すぎるキャラを見事に演じている。脇の相棒役にモーガン・フリーマン、敵保安官役にジーン・ハックマンと言う強力な演技派を得て、正に西部劇への見事なレクイエムを奏でている。中でも正義でありながら悪と言う憎らしさを見せつけるハックマンの巧さには注目してほしい。こう言う役においては右に出るものが無い気がする(笑)
良くある西部劇の王道とは荒野の砂塵舞う中で戦うヒーローものだが、実際は埃だらけで汚らしく、泥臭いものであり、殺し合いをする者は決して英雄ではなく、アンチヒーローなのだ。レオーネやシーゲルの作品にはその影の部分があった。それをよりディフォルメして描いている今作は彼らに捧げるに相応しい傑作。
また現在、流行のアンチヒーロー、ダークヒーローとしての存在の奔りであり、イーストウッドの時代を見る先見性にも驚かされますね。(^^)
追記…でもあからさまにヘタレって分かるキッドがうるさいんだよなぁ…。彼が少しおとなしければ…。