もものけ

ゼロ地帯のもものけのネタバレレビュー・内容・結末

ゼロ地帯(1960年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

フランスへ侵攻して来たナチスドイツ軍が制圧した街で、エディットはピアノ教室の帰り道、両親が連行されるのを目撃して一緒に収容所に送られる。
ユダヤ人は全て殺される収容所で、エディットは医師に助けられてニコルという身分で一般女囚として命が助かるが、両親達はナチスドイツ軍に連れられて殺されてしまう。
絶望に打ちひしがれるエディットを乗せて、汽車はポーランドの強制収容所に辿り着くのだった…。


感想。
イタリア映画では珍しい収容所物の戦争ドラマ作品で、エログロ変態物のホラー映画が多い中で、真面目に一人の少女が辿る過酷な運命を描いております。

イタリア語の違和感バリバリで、当時にあったのだろうかという疑問が浮かぶショーウィンドウの前を通り過ぎるエディットや、ドイツ軍の安っぽい制服、ぶつ切りに登場する音楽など、リアリズムに欠けた作り込みは、イタリア・ホラー映画ではお馴染みの適当編集大好きイタリア人の個性的溢れる演出でございます。
やたら大袈裟にドラマチックさを強調するなど、ホロコーストの悲劇を描いているというよりは、「アンネの日記」を手本にしたかのような人間ドラマがメインとなっていて、反戦映画というイメージではありませんでした。

とはいえ、収容所での運命を狂わせるエディットが辿る道が、サクリファイスとなって人々を救う事になるラストは、それなりに悲劇的結末で戦争の悲惨さを訴えかけているようにも思えます。
囚人達が絶滅対象であるユダヤ人ではない収容所を描いているので、やたら友好的なSS軍人に多少違和感がありながらも、映画と割り切って鑑賞すればそれほど気にならなくなる不思議な作品となっておりますが、"カポ"という特権を与えられた囚人が、ユダヤ人評議会と被って見えてしまい、どんな状況なのか混乱するストーリーでもありました。

絶滅対象はユダヤ人、精神病患者、ロマ人と一部地域のみ限定した政治犯なので、ジュネーブ条約で保護された捕虜や政治犯のみが収容所に集められている不思議な空間で起きるナチスドイツ軍の行動の違和感も頭に残ります。

エディットが"カポ"になるまでの悲しい道のりは伝わりますが、あの収容所で厚化粧をしてお目々パッチリメイクで登場する違和感に、少女のイメージが全くなくなるけばさで大袈裟に演出されている感がバリバリでした。
そして突然訪れる捕虜との恋の物語にア然としながら、悲劇的結末へと向かうのでした。

映像はモノクロですが、なかなか良い芸術性があり、古い作品ながら綺麗にフィルムからリマスターされた映像が良いです。
この時代を描く戦争ドラマは、モノクロであるとドキュメンタリーのようなリアリズムが生まれるのですが、この作品では逆効果というのもまた面白い試みであります。

ロケーションも良く、鉄道で移動させられるシーンなど絵的に他の戦争ドラマに引けをとらない映像美があります。

戦争の悲劇を訴えかける映画というよりも、物語として観ると良い作品でありました。

違和感だらけのナチス物ですが、戦争ドラマとして見ればそれなりに悲劇的で、なかなか良かったので、3点を付けさせていただきました。

こうした古い隠れた作品に出会える楽しさをくれたメーカーに感謝です。
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