タケオ

ローズマリーの赤ちゃんのタケオのレビュー・感想・評価

ローズマリーの赤ちゃん(1968年製作の映画)
4.2
 『エクソシスト』(73年)『オーメン』(76年)と並ぶ「オカルト・ホラー」の金字塔である。極めてフラキシブルな語り口が紡ぎだす神経質的な恐怖と不安は、今なお全く色褪せていない。 
 全編に満ち溢れる「今隣りにいる誰かを信用できない」という恐怖はホラー映画の古典『ボディ・スナッチャー/恐怖の街』(56年)とも通ずるものだが、『ボディ・スナッチャー〜』が'共産主義の大同に対する恐怖'を描いていたのに対し、本作は'悪魔崇拝に対する恐怖'を描いた作品である。公開翌年に起きた「シャロン・テート殺害事件」が、本作の描出した'悪魔崇拝に対する恐怖'に残酷なまでの説得力を持たせたのは言うまでもないだろう(厳密にいえばシャロン・テートを殺害した-マンソン・ファミリー-は'悪魔崇拝集団'ではなく'狂信的カルト教団'であり、本質的には全く異なるものである)。
 全ては悪魔崇拝集団の仕業なのか、それとも主人公の妄想なのか。同情と共感をギリギリのラインで阻み続けるミア・ファローの演技も実に見事。彼女はいわゆる「信頼できない語り手」だ。とうとう主人公すらも信用することができず、鑑賞者は常に居心地の悪さを味合わうこととなる。'悪魔崇拝に対する恐怖'と'マタニティブルー'を煮詰めた、正に悪夢のスリル・ライド。もちろん彼女が抱える恐怖や不安は、女性の権利や尊厳を軽視する社会の歪みから生じるものでもある。某世界的な総合競技大会の会長が平気で女性差別を口にし、大変な問題となっている。改めて、本作が描いた恐怖と不安は時代を超えた普遍的なものだと思う今日この頃だ。
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