こたつむり

ローズマリーの赤ちゃんのこたつむりのレビュー・感想・評価

ローズマリーの赤ちゃん(1968年製作の映画)
3.8
玉砂利の底なし沼に。
ズブリズブリと嵌り込んでいく…そんな作品。

ニューヨークの古い集合住宅。
薄い壁の向こう側から聴こえる隣家の声。
そして、主人公《ローズマリー》の周りで起こる不気味な出来事。やがて精神的に追い詰められた彼女は「全ては悪魔崇拝者の所為だ」と口にする…という物語。

いやぁ。なかなか薄気味悪い作品でした。
特に主人公を演じたミア・ファローの変貌は見事な限り。妊娠後の髪を切った容姿は、まさしくノイローゼ患者そのもの。あのギラついた目つきは今でも忘れることが出来ません。

しかも、彼女の主張が。
真実なのか妄想なのか…容易に判別がつかないのも恐ろしいのです。何しろ「夫が冷たくなった」と口にしますが、そのような場面は無いのですからね。妊娠初期の不安定な状況…とも言えるのです。

ただ、それでも本作がフェアなのは。
伏線をキッチリと張っていること。特に“音”がキーポイントでした。画面の移り変わりに気を取られていたら、聞き逃していたかもしれません。その他にも、細かい部分を繋ぎ合わせると、真実が浮かび上がってくる…というのもミステリ好きには堪りません。

また、悪魔崇拝についても。
“悪魔の胡椒”だとか“呪術に使う生贄の代わり”だとか。なかなかツボをついた“小道具”で、雰囲気を作り出していました。何しろ、街の片隅で“呪術”の書籍が手に入るのですからね。さすがは、魔都ニューヨーク。ヒッソリと悪魔が潜んでいてもおかしくない街なのです。

ただ、そんな素晴らしい作品ですが。
終盤の展開は蛇足に感じる部分もありました。
確かに“オカルト”は不明瞭なノイズが混じってこそ。灯りを照らすような展開は肩が下がっても不思議ではないのです。しかし、最後の最後で表現されたものが真のテーマ。やはり“あの”展開は必要だったのだと思います。

まあ、そんなわけで。
“恐怖”というものをクッキリと描き切った秀作ですが、妊婦さんが苦しむ物語ですからね。妊娠中の方は鑑賞しないほうが賢明です。胎教に悪いのは確実ですからね。

ちなみに余談として。
終盤の展開で『魔太郎がくる!』の最終話を想起したのは内緒ですよ。
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