よねっきー

インディアン・ランナーのよねっきーのレビュー・感想・評価

インディアン・ランナー(1991年製作の映画)
5.0
世の中、出来の良いやつと、出来の悪いやつがいる。クラスには算数ができるやつとできないやつがいるし、バイト先では同期でも良い大学に行ってるやつと高校にも行かなかったやつとがいるし、いつかバイトを辞めて大企業に就職するやつもいればずっとバイト暮らしでやってくやつもいる。人生って人生ゲームみたいだ。神様がルーレットで出した目に合わせて、俺たちは分け与えていただいた顔と体と脳味噌と才能を発揮して必死に生きていく。

兄弟にも必ず、出来の良い方と、出来の悪い方ってのがいることになる。この映画は、出来の悪い弟が社会に馴染めるように出来の良い兄ちゃんが手伝ってやるお話だ。

弟はなかなか困ったやつだ。放蕩息子だし、自分勝手にすぐにキレるし、親父が死んでもヘラヘラしてる。父親になる準備もないのに子供つくって、いざ出産となると怖気付いて逃げ出す。はっきり言ってクズ男だよ。だけど、クズ男って言って切り捨てるんなら簡単だろ。

兄貴に向かって「俺は算数ができなかった」と語る弟の凶暴な眼差しが哀しい。算数がわからないし、世の中の理屈がわからない。兄貴が無意識のうちにやってのける「理にかなう」ってこと、それだけのことに彼がどれだけ憧れていたか。いくら逃げようと走っても、世間は脚を掴んで逃してくれない。彼は捕まらない存在になりたかったのだ。獣に襲われることのない、メッセージのようになりたかったのだ。街を歩くインディアンに対して彼が向けていた鋭い視線はきっと、幼い頃からなんとなく抱いていた嫉妬からだったんじゃないだろうか。

脚本の誠実さとストーリーの強度はさることながら、映画に散りばめられたディテールが愛おしい。海辺のささやかな結婚式のシーン、奇跡みたいだった。

最後まで兄貴は優しい。それが彼には嬉しくて、悔しかったのだ。寝室で、全裸のまま何も出来ず呆然として煙を喫むあいつの気持ちが、俺には何だか分かってしまう。だって俺にもめちゃくちゃに出来の良い、かっこいい兄貴がいるんだもの。
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