半兵衛

西部戦線一九一八年の半兵衛のレビュー・感想・評価

西部戦線一九一八年(1930年製作の映画)
4.2
『プラトーン』や『プライベート・ライアン』のような実録風の戦争ドラマがナチス台頭直前のドイツで作られていたことに驚き、しかも約80分という短い尺で過不足なくまとめているのが凄い。

社会派と言われたパプスト監督らしく、戦争に携わっている兵士たちはおろか一般生活を送っている市民の様子まで徹底した現実的な視点で描かれる。特に帰還した兵士が妻の不実を知り仲違いをする場面は戦争に参加している人間と戦争で暮らしを圧迫されている人間の違いを容赦なく描いていて兵士同様社会の現実を見せつけられる。

戦争の様子もリアルで、第一次世界大戦時のスタイルである敵も味方も塹壕で爆弾や射撃を相手に行う→決着がつきそうになったら戦車を導入して相手側に踏み込むの流れが詳細に描かれている。あとカットを割らずにワンカットでくつろぐ兵士に敵が急襲したり(画面の端で爆撃している)、同じくワンカット射撃で撃たれるからの爆撃で死体がぶっ飛ぶという流れをやっているためニュースでの戦争シーンを見ているような迫力ある映像に仕上がっている。それと後半主人公たちドイツ兵が四方に敵を囲まれ急襲されるシーンではとんでもない量の火薬が次々と爆破し、画面が煙だらけになり本当の戦場にいるような臨場感を味わえて興奮すると同時に『地獄の黙示録』にも似た監督の狂気を感じてゾッとした。

さすがにこの時代では残酷な死体や破損の描写はないものの、間接的な処理や一部のものを見せつけて観客に嫌な想像を委ねる演出が巧み。戦場病院で重症を負ったり、瀕死の患者や医者の様子は血とかは見せずに迫力ある演技でどういう状態なのかを把握させたり(「麻酔がない」という台詞の怖さ!)、主人公が所属している部隊にいる兵士の一人が行方不明になったのち激戦になった際に彼の手だけ地面から飛び出るところなど。最後に死に行く兵士の演出はもはやホラー。

「まだこうした戦争の世界は続いているんですよ」と言いたげなエンディングも衝撃的、今まで何千本と映画を見たけどこれほどまでにパンキッシュでアナーキーな「終」ははじめてかも。おそらくナチスに向かって言ったのかも知れないが、今見ると約10年後の第二次世界大戦を予期しているよう。
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