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醜聞(スキャンダル)のKamiyoのレビュー・感想・評価

醜聞(スキャンダル)(1950年製作の映画)
3.8
1950年 ”醜聞(スキャンダル)” 監督 黒澤明
脚本 黒澤明  菊島隆三

アメリカは訴訟文化が根付いているけど
日本ではまだまだそうとは言えない。
裁判員制度も混乱気味の中で
2009年に施行されたことだし。
‘沈黙は金’なり、波風をたてない‘
円満解決が望ましい’、という
小さな島国の日本文化では
輪を大切にして我(個)を張ることを
どちらかといえば嫌うし
意見の違う者たちが欧米人を真似て
ディベートしてみても
たちまち喧嘩になって
感情論になってしまうようです。

戦後5年程度で日本映画からこのような
リーガル(法廷)映画が作られていたことに
改めて驚かされる。
黒澤明監督作品の普遍性を今さら強く認識できる。
現在と全く同様なマスコミの暴走が
社会問題化していたことに驚く。
基本的人権という言葉が飛び交うことからも、
わかるとおり、与えられた権利である言論の自由が、
戦時中の束縛から解き放たれ、勢い余っている様子が
伺える。

あらすじがないので簡単にどんな話かというと
三船敏郎演じる画家、青江一郎と
山口淑子演じる声楽家、西條美也子が
湯上りに美也子の部屋を挨拶に訪れた青江と二人でいる
ところを雑誌アムール社カメラマンに撮られてしまう。
ただそれだけのことで、新進画家と人気声楽家のロマンスとでっち上げられ、雑誌に載せられてしまう
雑誌アムール社の社長の堀(小沢栄太郎)は「記事なんか少しくらいでたらめだって、活字になれば世間が信用するよ」と言い放つ。事実無根の記事を書かれる。
それに怒った青江が雑誌社に乗り込み
編集長を殴ってしまう。

声楽家西條美也子(山口淑子)と偶然知り合うことになった青年画家青江一郎(三船敏郎)との二人とマスコミとの対決の物語かと思い込んでいたけど
その間に挟まる弁護士役の志村喬が思った以上に
重要な役割を担っていたことに驚いた。
彼の登場によって主題はジャーナリズムを扱った社会問題から弁護士の人間ドラマへとシフトしていってしまう。
このジャーナリズムが抱える問題点という主題が
途中からトーンダウンしてしまったために自分の中での
映画の印象も曖昧になってしまったのだろう。

この映画、最初てっきり三船敏郎が
主役と思ってたんですが、全然違いましたね…
その志村喬が抜群に良かったです。
いかにもだめそうな弁護士なんですが
本当にだめ人間。

志村喬演じる蛭田乙吉が弁護士をやらせてくれ
といった感じで話が始まっていく。
新進画家・青江のアトリエでモデルのすみえ(千石規子)と話していると、突然悲鳴を上げるすみえ。
誰かが割れた窓の外から覗いている。ドアを開けて入ってきたのは、いかにも胡散臭そうな男・蛭田。
ここらは街灯がないから、下水に足を突っ込んだと言っては、靴と靴下を脱ぐ。その臭い靴下をヒラヒラさせながら、要領を得ない話を延々と続けるのだ。
どうもこれまで、口先一つでこの世を渡ってきたような男だが、あまり話に説得力がない。蛭田が帰った後も
この男の話で、青江とすみえは大笑いだ。

青江は蛭田が信用できるかどうかを確認するために自宅を訪れ、結核で床に伏せている娘正子(桂木洋子) の存在を知り、正式に蛭田に代理人を依頼する。
素直な娘正子を見て、この父親なら信用できると
思ったのだろう。
娘正子に、「お父さんは悪い人ではなく、弱い人なんだよ」と、青江は優しくなだめる。
本作の三船は実にあどけなく、無邪気な表情を見せる。
こんな柔和な顔もするんだというほどの甘いマスクも見ることもできる。

ダメな男だが人間味溢れる蛭田というキャラにスポットが当たってしまい、本来の目的を達成することの変更を余儀なくされてしまった。
しかし、それは必ずしも失敗とは言えないのではなかろうか。ここで志村喬演じる・蛭田の、ダメさ故に悩む姿を観ていると、何とか立ち直らせてあげたいと思えてくる。
彼は悪い男ではなく、弱い男なのだ。
そして、病気で純粋な娘正子(桂木洋子)を愛するあまり、自分の心の醜さを呪い、苦しみのたうちまわる。
とてもみっともないのだが、どんな人間にもあるその心の弱さに、観客は、我が身を振り返る。

それにしてもバイクを駆って颯爽と東京の街を走る三船敏郎は、やっぱりかっこいい!特にクリスマスツリー積んで走る場面がよかった。

ヒロイン役の李香蘭こと山口淑子さんの綺麗なこと…。
全く今にも通じる顔立ち。

女優のMVPは何と言っても、千石規子。
この人は本当にうまい。びっくりするくらい若くて
後年脇に回った婆さんの役しか見ていなかったから
実に新鮮だ。

小沢栄太郎は根性悪の役をいつも通り
見事に演じているし

ワンシーンしか出てこない左卜全も最高。
クリスマスでの「蛍の光」の合唱は「生きる」の「ゴンドラの唄」に通じる。
Kamiyo

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