レインウォッチャー

ロスト・ハイウェイのレインウォッチャーのレビュー・感想・評価

ロスト・ハイウェイ(1997年製作の映画)
3.5
ようこそ(悪)夢の国へ。

ミュージシャンのフレッドのもとに、何者かから一本のビデオテープが届く。妻レネエと共に内容を確認すると、自宅の中を盗撮したような映像が収められていた。侵入者か変質者か?その日を境に、フレッドの日々は徐々に狂い始める…

「鬼才」の変換候補に出てくるんじゃあないかと思われる男、デヴィッド・リンチが'97年に投下した美しき悪夢の坩堝。
その騙し絵のような迷宮的ストーリー構造や、いかにもアート映画らしい映像の差し込み等からThis is・難of the解として語られることの多い作品だけれど、実はリンチさんはとても親切なエンターテイナーであると思う。

なにせ、開幕早々に主人公のフレッドは「カメラ嫌い」で、「事実を起こった通り記憶したくないんだ」等とのたまうのだ。

そもそもオープニングゼロ秒、底なしの闇夜に突進するハイウェイの映像にかぶさる性急なビートはデヴィッド・ボウイの『I'm Deranged=おらイカれちまっただ』なのだから、どうやらこりゃーもう真面目に立ち向かったところでやんぬるかな、なのである。
信頼できない語り手ならぬ、「信頼させる気がさらさらねー語り手」、とでも言うのだろうか。(おわかりいただけただろうか。)

リンチさんはちゃんと何度もいろいろな方法で、まあゆっくりしていってね!と言ってくれているのだ。
他にも随所につきまとう「二重(あるいは複製)」「逃げる」といったモチーフからなんとなく全体像が見えてくるようになっていて、ややこしい要素を剥がしていくと、意外とシンプルなノワール劇としての骨格が顕になる。

そして、この曖昧で夢幻的な世界を確固たる映像の説得力で支えている作品であるからこそ、さまざまな楽しみ方ができようというもの。

勿論せっせと考察に励むもよし、レネエ=アリス役パトリシア・アークエットの耽美で完璧なファムファタル像に性嗜好を傷つけられるもよし、鳴り響くマリリン・マンソン(※1)やラムシュタイン、NINといった90年代暗黒インダストリアル祭りに踊り狂うもよし、「煽り運転って本当に良くないんだなあ」と教訓を得るのもよし。

こんな懐の広さを見せてくれるとは、やはりリンチさんはサービス精神溢れるエンターテイナーなのだろう。
ディズニーランドにそろそろデヴィッドリンチエリアができても不思議ではない。だめ?じゃあひらパーとか…。

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※1:ちなみにマンソンとベーシストのトゥイギー・ラミレズの二人は映画内のとあるところに出演している。まさか「ウォーリーを探せ」的要素もあるなんて、流石としか。