ボブおじさん

ヒューゴの不思議な発明のボブおじさんのレビュー・感想・評価

ヒューゴの不思議な発明(2011年製作の映画)
4.1
孤独な少年ヒューゴがパリのリヨン駅で出会ったしがない老人は映画黎明期、「月世界旅行」などの名作を生んだ“映画の父”ジョルジュ・メリエスだった…

公開時に話題となったのは、〝あの〟マーチン・スコセッシが子供向けのファンタジー映画を自身初の3Dで監督したことだった。

スコセッシといえば、シチリア系イタリア移民の家に生まれ育った為、血と暴力にまみれたマフィア映画を思い浮かべるだけに、果たして大丈夫か途中で誰か殺されないかとハラハラしたものだ。

蓋を開けてみれば、今までの作風とはガラリと違い、安心して親子で見られる冒険ファンタジー映画として仕上げられており、この監督の懐の深さを感じさせた。

冒頭いきなり3Dでなければ味わえないであろう移動映像で、パリの街中からリヨン駅の時計台の中までワンカットで連れ込まれる。正にこの映画のテーマでもある〝映画は人々に初めての体験を与えてくれる〟を公開当時は実感した。

このシーンに象徴されるように、映画を初めて見た観客たちの感動(たとえば、せまりくる蒸気機関車の映像に対し、思わず驚いて体をよけてしまうなど)と類似した驚きや感動をスコセッシ監督は、3Dを使った最新技術で現代の観客に表現しようとしたのだろう。

親のいない少年(エイサ・バターフィールド)が広大な駅の中、1人でたくましく暮らすというのはそれだけで十分アドベンチャーなのだが、そこにパートナーとなる不思議な少女(クロエ・グレース・モレッツ)と敵役となる強面鉄道公安官(サシャ・バロン・コーエン)が加わり物語は益々スリリングになる。

更に少女の育ての親が誰であろう、かの「月世界旅行」を作ったジョルジュ・メリエス(ベン・キングズレー)だったことが判明する。そんなメリエスと彼の作品が再評価されていくまでを、スコセッシ監督が映画愛にあふれる演出で描いてくれるのだが、この過程でいつも涙が出てくる。

ジョルジュ・メリエス、彼こそが〝映画には夢を形にする力があると気づいた最初の人〟なのである。映画を見てワクワク・ドキドキする、その最初の一歩を歩んだ偉大な先人達に対するスコセッシからの最大級のリスペクトを感じさせる映画だった。


公開時劇場で鑑賞した映画を動画配信にて再視聴。