コーカサス

コッポラの胡蝶の夢のコーカサスのレビュー・感想・評価

コッポラの胡蝶の夢(2007年製作の映画)
3.5
“自分は蝶になった夢をみていたのか?
それとも今の自分は蝶が見ている夢なのか?”

夢の中で胡蝶になり、果たして自分が胡蝶なのか、胡蝶が自分なのか…。
荘子が“現実と夢の区別が出来ない様子” を説いた故事「胡蝶の夢」を元に、ミルチャ・エリアーデ原作「若さなき若さ」をコッポラが『レインメーカー』以来10年ぶりに映画化。

初老の言語学者ドミニク (ロス)が落雷を受けて若返り、26歳から101歳までの生涯を繰り返す世にも奇妙な物語だ。

人間が生きていく上で最も必要なコミュニケーションツールである“言語”を研究し、そのルーツを辿るドミニクの鬼気迫る探求心に圧倒される。

“ゴダールにならなかった”コッポラらしい実験的かつ、難解な物語構成ではあるもの、黒のバックに薔薇を浮かべたオープニングや敬愛する小津安二郎を手本とした固定キャメラで何層にも積み重ねられた美しいショットの連続はまさに職人芸。

余談だが、赤色の再現度が高いドイツ製フィルムのアグファを好んだ小津に対して、本作の室内シーンでコッポラは黄色の発色に優れるコダックフィルムを使用しているとのこと。

先にも記した通り、いささか難解な夢物語だが、そうした色彩美を楽しみながらも、筆者を含めたあなた自身も蝶になることで、物語はおろか荘子の説く“人生の儚さ”さえも理解することが出来るのかもしれない。

223 2020