KnightsofOdessa

紅夢のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

紅夢(1991年製作の映画)
4.5
No.828[大傑作!紅に染まった妾たちによる狂気の権力戦争] 90点

主人公が静かに発狂する。素晴らしい。なんて私好みの映画だろう!主役のコン・リーは強かに見えるが、役柄的には感情論で動くおバカさんだったので騙された形になってしまったのは残念だけど。

実父の亡くし養母に売られるように地主の第四夫人となった主人公スンリェンは屋敷の伝統に縛られた生活を強いられる。それは、主人が夜を過ごす妾の院の提灯に火が灯り、主人の好みに合うよう”足打ち”をされ、翌日の食事を選ぶ権利を与えられる、というもの。
正夫人は壮年に差し掛かり、成人した息子がいる。既に死人のようであり、登場回数も少ないが、妾たちには絶大な影響力を誇り、主人がいないときは屋敷の決定権を持つ。
第二夫人はスンリェンに優しく接し、屋敷での過ごし方などを教える。が、こういう場合の”気さくさ”は注意が必要で、地獄へ続く善意の道を悪意を持って引き続ける人物である。
第三夫人は京劇女優であり、どの夫人にも冷たく接するが、実は一番理解のある人間であることが分かってくる。
強かに生き残るためには手持ちカードが少ないのが明白だ。そして、自ら袋小路に入っていき、理解者たり得た小間使いや第三夫人を失ったのには同情を禁じ得ない。主人公が雪化粧の中発狂していく様は、今年一の映像美とも言えるだろう。広大な屋敷で孤独を募らせる主人公を突き放したようなロングショットは忘れ得ない。

主人の愛という抽象概念を提灯の点灯で表す具現化には惚れ惚れするし、敢えてその主人を画面上で言及しないのには脱帽だが、それ以上に本作品は”音の映画”であることを言いたい。広大な屋敷ではあるが音を遮ることは出来ず、第三夫人の歌や足打ちの音、若旦那の笛、遠くでの会話などが薄っすら聞こえるという精神破壊にはもってこいの場所だ。その分、雰囲気を盛り上げるだけの安い音楽が若干導入されているのは残念に思う。

イーモウは赤が好きなんだろう。赤には人間が潜在的に恐怖を抱くようになっている。発狂した主人公が第三夫人の部屋で提灯に火を付けまくるシーンは是非ともリマスターして欲しい名場面だ。
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