のび

のびの感想・レビュー

酔いどれ詩人になるまえに(2005年製作の映画)
3.7
映画『酔いどれ詩人になる前に』は、観る者を挑発する。お前は切実なものを抱えているか? それをしないではいられない何かを持っているか? それを失ったら、自分で自分を保つことができるか? そんな挑発が画面からあふれる一本だ。

この作品は、主人公のヘンリー・チナスキーが最低の生活を送りつつも、作家になるために小説を書き続ける日々を描く物語。チナスキーは酒と女にまみれ、仕事に就いてはすぐにクビになる。金に事欠く生活だ。

チナスキーはそんな最低な生活を送りながらも小説を書き続ける。狭い部屋の片隅で。カフェのテーブルで。「どん底でも、言葉はおれの中から沸き上がり、書き留めないと死よりひどいものに支配され」てしまうからだ。そのようなチナスキーの、どんな状況でも小説を書き続ける姿が観る者を挑発する。

「もし、何かにトライするのなら徹底的にやれ。でなきゃやるな」と。

そんなチナスキーの挑発が、観る者に不安に似た気分さえかき立てる。本作は、チナスキーほどに切実なものを持っていないかもしれないわたしたちに、そして世界に対して何の挑戦もしていないかもしれないわたしたちに、自分は本当にこれでいいのだろうか、このままでいいのだろうかと内省を迫る一本だ。