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酔いどれ詩人になるまえにのGreenTのレビュー・感想・評価

酔いどれ詩人になるまえに(2005年製作の映画)
3.0
主人公ヘンリー・チニンスキの社会不適合者っぷりが爆笑の映画です。

チニンスキはいいトシして時給6ドルとかのバイトを転々としているんですけど、全く労働というものに興味がなく、仕事を途中で止めてはタバコ吸ったり酒飲んだりしている。

物書きになりたくて、作品を自分が好きな雑誌に送り続けるのだけど、一向に認められない。

私は結構こういう社会不適合者好きなんですよ。チニンスキは、思考する人なので、肉体労働に興味がないのはしょうがない。だけど、なんにも気にしない、自堕落なだらしない人ではないんですよね。お金があれば、いい服を着たり、いい葉巻を吸ったりすることにも興味がある。いい家に住みたいなあとか。結構高尚な人なのだ。

チニンスキはホームレスになっても、バーでナンパするときは女性に飲み物を買ってあげる。で、その女性のアパートに転がり込むのだが、彼女のヒモとしてダラダラしているわけじゃなくて、ちゃんと書いているし、仕事が見つかればするし、あと、彼女との仲がマンネリ化してきたら、自分から去っていく。彼女といるのが楽しいからいるだけで、お金のためとか生活のためではない。しかも別れる時、「俺の金の半分はお前の金だ」とちゃんとお金を置いていく!元々たいして持ってないのに!!

チニンスキのアート(自分で書いたもの)に対する姿勢もすごい高尚だ。

「どんなにひどい生活をしているときでも、言葉は自然と溢れてくる。それを書かないと、死よりも恐ろしいものに支配されてしまうように感じる。言葉は尊いものではなく、必要不可欠なものなのだ。だけど時々、自分には言葉を操る才能があるのか自信がなくなる。そんな時は、他のライターの作品を読んでみれば、何も心配はないことが分かる。打ち勝たなくてはならない相手は自分だ。力と喜びと賭けを使って正しく行うのだ」

「ファンや評論家を喜ばすために書いているヤツは終わっている。自分の書いたものを評価できるのは自分しかいない」

ガールフレンドのジャンとの関係も面白くて、ジャンもアル中で労働に喜びを感じない人で、チニンスキとすごく気が合うのだが、チニンスキが贅沢品が好きなのに対して、彼女はサイテーの生活が好き。チニンスキが競馬で儲けていい服を着たり、アパートをキレイに掃除したりすると「あなたは変わった」と言って怒り出す。

これに対するチニンスキの洞察がまたすごい。これはジャンの言い訳だ、と言うのだ。ジャンはバーに行って、金のない、サイテー男を引っかけて来たいから、俺に文句を言ううのだ、と。

私も、ジャンって人は、生活が向上するってことは、自分もそれに合わせて成長していかなくてはならないので、それをしたくない人なんだなあって思った。もしくは自分はなれない、って思っているか。

それから、ジャンとチニンスキの関係も面白い。チニンスキは基本的に一人で酒飲んで書いているのが好き、つまり自分の内面と向き合うのが好きな人なので、ジャンのことは好きなんだけど、ずっと一緒にはいられない。ジャンは、自分とずーっと底辺にいてくれる男が欲しい。だから二人とも、関係が成熟してくるともう先には行けず、終わってしまう。

あと、自転車部品屋をクビにされるときに店長に、「お前がデカい家に住むために俺たちは安い金でこき使われる」とかわーって言うんだけど、まあ全く仕事マジメにやらなかったんだからクビになるのはしょうがないが、確かにこういう低賃金の仕事って、人間性をはく奪されるような要素はある。こんなことを、生活のためにしなくちゃならないのか!っていう思いはみんなあるじゃない?それにこういう労働は安く買い叩かれていて、事業主だけが儲かるようになっていると言うのも本当のことなのだ。

そういうことをストレートに言ってしまうチニンスキ、しかもそれを言う言葉がすごく洞察力がある。あと、社会に適合できなくて、クビになり続ける人は正直者だと思う。汚いヤツは、仕事もしないクセにウソをついたり、人を騙したりして会社に居座り続ける。チニンスキはクビになり続けてもお金をだまし取るとかそういうことはしない。駐車している車からタバコの吸い殻を盗んだりしたけど、鍵をかけていない車を見つけたのにそれを盗むとか、お金を盗むわけじゃない。

私はこういう生き方ができるほど高尚な人間じゃないので、すごい憧れるわ~。
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