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サンタ・サングレ/聖なる血のnetfilmsのレビュー・感想・評価

3.7
 サーカス団長のオルゴとコンチャの間に生まれたフェニックスは繊細で感受性豊かな少年。父オルゴは女たらしのサディストで現在の相手は“刺青の女”。少年はその養女6歳のアルマに一目惚れする。聖なる血を流す乙女の像を崇拝する母コンチャは、オルゴの浮気現場を発見。彼の下半身に硫酸を浴びせるが、これに激怒した夫は彼女の腕を切断し、自らも喉をかっ切って果てる。この一部始終を目撃したフェニックスはショックの余り精神を病んで施設に収容された。やがて成長した青年フェニックス(ホドロフスキーの息子アクセル)は、病んだ精神を母の狂気に操られて、女すべてへの身の毛もよだつ復讐を繰り返すが、そこへすっかり娘となったアルマが現われる。前作『ホーリー・マウンテン』から16年、すっかり寡作家となり、文字通りカルトな作家になってしまったホドロフスキーの89年作。この間に後にデヴィッド・リンチが手掛けた『DUNE』の監督に決まり、順風満帆に見えた彼のキャリアはこの『DUNE』に振り回され、15年もの期間を棒に振る。この辺りの顛末は『ホドロフスキーのDUNE』に詳しい。

 今作はホドロフスキーと縁もゆかりも無いイタリア資本によって制作されたのだが、ある種監督とイタリアとの出会いは必然のようにも思える。『エル・トポ』と『ホーリー・マウンテン』の2本の映画を観て、映画全体の見世物小屋のような雰囲気に、フェリーニやパゾリーニの世界観との相関性を感じた人も少なくないはず。その見世物小屋のような秘宝館のような怪しい雰囲気はイタリアのサーカス小屋に形を変え、ある家族の物語にフォーカスする。冒頭、精神病院の独房に入れられた若者が現れる。黒鳥がサーカス小屋へと飛んで生き、彼の若い頃を思い出すという実に映画らしい最初のシークエンスである。ホドロフスキーの映画の中では、饒舌な主人公は1人もいない。台詞に頼るのではなく、身振り手振りと表情と視線だけで相手に思いを表現しようとする。今作はヒロインのアルマも口がきけない。2人は互いの身振り、手振りだけでゆっくりと距離を縮めていく。前半部分は母親の気狂いじみた宗教への妄信と、夫婦の不和が割と丁寧に描かれる。法王に教会の中身を好意で見せようとするのだが、逆鱗に触れブルドーザーで教会が潰される。何もそこまでというような粗暴なアクションである。
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