幼い頃にトラウマを背負った少年フェニックスが、母親の呪縛により次々と女性を殺害していく狂気を描く。
ホドロフスキーが初めて商業映画を意識して制作したという事で、「エル・トポ」や「ホーリー・マウンテン」と比較するとストーリー性があり解りやすい。
しかし単純なホラーではない。残酷で切なくて悲しい物語。絶妙なカメラワークやカット割り、極彩色の彩り、独創的な映像世界に圧倒された。
精神病院に裸の男がいる。彼はなぜそこに収容されているのか、時は幼少時代へと遡る。
父はサーカス団長で、母は演目の空中ブランコを披露。ある日、母が父の浮気現場を発見した事により悲劇が始まる。
激しい嫉妬と怒りで硫酸をかける母、母の両腕を切り落とし自ら命を絶つ父。ガラス越しにそれを目にする息子。
構図、アングルが素晴らしく、まるで漫画のコマ割りのような鋭い描写だ。
精神を病んだフェニックスの前に母が現れ、殺人を繰り返していくのだが、彼は母の命令に抗い、苦しむ。
彼は母に勝てない。だから、強い女レスラーに殺人を止めてもらいたかった。
彼が見る白鳥や鶏や大蛇の幻覚は何を意味するのか?
フェニックスは母親に操られているように見えるが、彼の憎しみを母の無念に重ねているようにも思えた。
彼にとって女は破滅を意味する。父を誘惑した刺青女のように、女は肉体で男を滅ぼす。自分に近付く女を刺青女と重ねて憎しみを爆発させているようだった。
女は悪魔。しかし、聾唖のアルマだけは天使だった。
「僕の手だ…」
苦しみから解放された姿があまりにも切ない…。