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マングラーのryosukeのレビュー・感想・評価

マングラー(1995年製作の映画)
4.1
ファーストカット、轟音をあげながら黒光りする機械をゆっくりと舐める長回し。煙が充満した空間の中、機械の向こう側から光が差し込んでいる。巨大機械はこうじゃないとという感じでこちらのフェティシズムを満足させてくれる。プレス機が血を「吸う」のも素敵すぎる。やり過ぎ演出の爺さん二人(ロバート・イングランド、ジェレミー・グラッチェリー)も最高。ターミネーターみたいな義足。まあ、この二人の人物造形等に「リアリティ」がないとか設定のフワフワ感とか、そのような理由でIMDBのスコアが悲惨なことになっているのかもしれないが、そんなことで細部や演出の魅力が見えなくなってしまうのは勿体無い。個人的にはトビー・フーパー作品としても「悪魔のいけにえ」より好み。
リアリティとかどうでもいいし、赤と青の明滅する光に照らされれば冷蔵庫は立派に悪霊の巣に見えるはず。そんな悪霊(90年代の安っぽい合成、青い光はご愛嬌)を見せられた後は、発車する車のタイヤのクローズアップもプレス機を連想させて不気味に見えてくる。
「ジョーズ」等と同じく、怪物の威力は社会の腐敗と合わさることで増幅される。「全ての機械の神」と呼ばれる悪霊は資本主義システムそのものなのかもしれないし、マークに「神の似姿」と批判されるマングラーは、(先程フェティシズムと書いたが正に)「物神崇拝」のような概念が念頭に置かれているのかもしれない。そういう意味では、マングラーは「メトロポリス」のモレク(共に生贄の「労働者」を食い潰す)に連なる系譜なのかもしれないな。
ガートレーとマークの部屋や死体安置所の、雑然としており趣味の悪いレイアウトは、少しベクトルは違うけど「悪魔のいけにえ」と同様。
事件現場を彩る鳩、ローアングル長回しでぐるぐる回りながらガートレーを映す変なカメラワーク、プテラノドンのインテリアにタバコを咥えさせる描写、「ピクチャーマン」が絶命と共に画面に血を吐きかける演出など、外連も爆発していて満足。
同じく悪役として洗濯屋が出てくる黒沢清「復讐 運命の訪問者」に影響を与えているのではという話は聞いたことがあったが、近親間の欲望めいたものや足の不自由な悪役というアイデアからもインスピレーションの元が見て取れる。
ラストについに動き出すマングラー!一瞬で下半身をもぎ取る凶悪さが愛おしい。どこにそんな空間あったんだと思わせる螺旋階段の登場も素晴らしい。この手の映画の魅力は、異世界に接続する際にどこまで大きく、華麗に飛躍できるかにかかっていると思うので。
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