みなみ

友だちのうちはどこ?のみなみのネタバレレビュー・内容・結末

友だちのうちはどこ?(1987年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

⚠️全部しゃべるので注意

イランの映画は多分初めてだったけど、見てきた大衆映画と何もかも違う気がして新しい見方ができた。
それでも少年に抱く感情は普遍的なものでわかりやすく、それを軸として見れた。

シンプルなストーリー、シンプルな画なのにいろんなことを考えさせられる。

他の人の解説とか感想見て気づいたこともたくさんあるけど、人の声に耳を傾けるってとっても大切なことだってこの映画が言うのでこうやっていろんな視点を探していこうと思う。

まず主人公の少年の困った眉と揺れる瞳に心を掴まれる。瞬きで訴えかける控えめな性格なのもいいな。
困っているんだけど、パニックになることもなく、ただ淡々と「友達にノートを返す」というミッションをやり遂げるため奮闘する。
ジグザグの丘を越え、石畳の小道を走り、時に友達の名を一生懸命に叫ぶ。いじらしくて健気。
がんばれって抱きしめたくなってしまう。

例の友達のドジっ子で泣き虫でほっとけないところも周りの子のキョトンとした表情も全部愛おしい。

周りの大人たちはみんな権威的で話を聞かないのに自分の言うことは聞かせようとする。
身内であるお母さんも宿題をしなさいの一点張りで、おじいちゃんに至ってはいい子であろうがゲンコツが必要という横暴さを見せる。
こんな話を聞かない大人たちに翻弄されながらも友だちの明日の安否を思ってひたすら頑張る少年。きっと反論や抗議をしても無駄なこと、事態が余計悪くなることを知ってしまっているんだろうな。
社会の構造もこんな感じで、強いものが弱いものを、その弱いものがさらに弱いものを虐げるが、恐怖のため声を上げることはできない。権力者は自分の既得権益のことしか考えない。どの立場であろうと、自分の立場にだんだん疑問を持たなくなり、自分が被害者にも加害者にもなり得る構造が恐ろしい。

そんな中、唯一ドア職人のお爺さんだけが少年の力になろうとする。
歩くのは遅いし、話は止まらないのだけど、その時間の中で見える美しい光を指す窓、おじいさんの人生観や未来への疑念、私たちにとって大切なことを教えてくれる。
鉄のドアを勧める中年の職人と木のドアを作る職人のお爺さんとの対比もよく見ておきたい。

もはやついていけないアクションや目まぐるしく展開が進む映画ばかり見ていて、こういう時間がゆったりで素朴な生活の空気感を持った絵から訴えかける映画は新鮮で、少し眠くもなったけど積極的に観ようとすれば面白くなるってことがわかった。
中東に行ったこともないし知識もないけど、砂っぽく乾いていてでも案外寒そうだなと思った。
このゆったりとリアルな空間を描くことで、風の強さや窓が閉まる様子、洗濯物のたなびく演出が活きていてよかった。

特に諦めかけてべそを描きながら宿題に取り組んだ時の急な突風で閃くシーン。素敵だな。

子どもたちは風であり、暗闇の中の斜光であり、祈りの花なんだな。

最後の花の栞のシーン、救いがあってホッとした。

私たちを見つめ考えるものたちに耳を傾けなければいけないというメッセージがひしひし伝わってきた。
みなみ

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