オルキリア元ちきーた

友だちのうちはどこ?のオルキリア元ちきーたのレビュー・感想・評価

友だちのうちはどこ?(1987年製作の映画)
3.9
友達のうちはどこ?
1987年 イラン アッバス・キアロスタミ監督

イラン北部のコケルという村
学校で、先生に宿題をノートに書いていない事で厳しく叱責されてしまうネマツァデ君(アハマッド・アハマッドプール)。
今度ノートに書かなかったら、退学にすると脅されてしまう。
そのネマツァデ君のノートを間違えて持ち帰ってしまった少年アハマッド君(ババク・アハマッドプール)は
ノートをネマツァデ君に返したい。今日中に。
自分の責任で友達が退学になるなんて!

家で宿題の書き取りをしていても、ネマツァデ君のノートの事が気になって仕方ない。
忙しそうなお母さんは「宿題を済ませて遊びに行け」の一点張りで聞く耳を持たない。
お手伝いや兄弟の世話やおつかいなどを頼まれてしまう。

ネマツァデ君の家はコケルの村から離れたポシュテという隣の村。
丘や森を抜けて行かなければならない。

僕一人ででも届けなきゃ!
と、アハマッド君は家を飛び出す。


ただひたすらにノートを友達に届けるべく奮闘する少年を眺める作品なのに
どうしてこんなに心がザワザワするのだろう?

それは、アハマッド少年のストレートな気持ちを
大人が誰一人として(母親さえも)汲み取ってあげられない現実を
ずっと見続けなければならないから。

オドオドと自信が無さそうにしながらも
友達のために、自分がやるべきことに集中しようと頑張るアハマッド。

それに比べて、大人たちの何と適当なことか。
マウンティングで威圧的に怒るだけの教師
一方的な指示ばかり出す母親
子供の相談を無碍に突き放す街の住人
自分の経験だけで子供の躾を語る祖父
無理矢理に友達のノートを破いて使う男性
自分の過去語りと愚痴だけは立派な老人
そして無言で睨みつける父親

なんと息が詰まる子供の環境だろう
誰に相談しても、誰も的確な情報や助けを出せない人ばかり。

それでも生きていくしか無いのだ。

アハマッドが出した子供らしい優しい解決策に
ザワザワしながら観ている私達は救われる思いだ。

ネマツァデ君が叱られて泣き出す序盤からずっと
すっかりキアロスタミ監督の術中にハマって観ている。

アハマッド役のババク・アハマッドプールくんはじめ、殆どの役者が素人だというのに驚く。
ネマツァデ君役のアハマッド・アハマッドプールくんは、主演のアハマッド君の弟だとか。

石垣で出来た壁の隙間の路地を駆け回り
丘のつづら折りの坂道を登ったり降りたり
色味の少ないカスピ海周辺の乾いた風景が独特の情緒を醸し出す。

激しいアクションも大きな事件も
ロマンスも喧嘩も人生を変えるような出会いも起こらない(起こせない)
独特の映画製作環境でも、巨匠と言われる監督には
こんな宝物の様な作品が作れるのだ、というのを見せつけられた。