nivsan

キートンのエキストラのnivsanのレビュー・感想・評価

キートンのエキストラ(1930年製作の映画)
3.6
2017年334作目。
大好きなキートン作品の中で何気に観てなかった一本。
いやぁ、切なすぎるね。
これが当時のエンターテイメントかと感じるような、少し安っぽいチャップリン仕立ての構成とストーリー。
それを感情を表に出さないキートンが演じた正にMGM時代ならではの今作。

普段トボけた顔をした偉大なる無表情がラストに主人公の悔しさ、悲しみといった正に深い感情を表情だけで表現していて、私は酷く感動して涙が出てしまいそうになりました。
同時にキートンは演技が上手かったんだなとサイレント作品では感じる事のできない彼の一面を垣間見れた作品でした。

監督は今作の他にもMGM時代のキートン作品で多数監督を務めるエドワード・セジウィック。
個人的にMGM時代のキートン作品で最も好きな作品であるキートンの恋愛指南番、キートンのカメラマンもこの監督。

今作の欠点はキートン初のトーキー作品なのに、キートンが映る必要のないストーリーと演出である。
キートンだけにしか出来ない圧倒的なアクロバットも無ければ、スラップスティック・コメディの要素も薄く、お決まりラストのハッピーエンドでも無く、キートンらしさが一切無いのです。
なので全体的に個人的には薄味に思え、キートンがサイレントという通常世界から、トーキーという異世界に突然送り込まれ、戸惑い順応できていない彼の葛藤を感じます。
これもMGMという会社ならではなのか…

キートンはやはりトーキーに移行するには少し早かったような気がしますね。
彼のサイレント作品は全て挑戦的でまだまだ発展途上のように思えますので、やはりチャップリンの様にサイレントを突き詰めて欲しかったし、そんな作品が観たかった…

しかし上記に並べた今作の良さはキートン初のトーキー作品でありながら、キートンらしくない事をキートンがしたからこそ得られるものであったと考えます。
しかし、キートンの味を潰さずに上手に調理すれば今作はチャップリンの街の灯のような美しく切なく面白い伝説的な作品になったような気もしますね。
惜しい!!!
nivsan

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