垂直落下式サミング

マニアックの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

マニアック(1980年製作の映画)
3.5
人形しか愛せない殺人鬼を描いたスプラッタホラー作品。素手で死体の頭皮を剥ぎ取り、猟銃で撃たれた頭部が辺りに飛び散ったりと、トム・サヴィーニが手掛けた過激な人体破壊表現が売りの80年代スラッシャーである。
本作は超然的な殺人鬼が突如として現れ、カップルや農夫を次々と八つ裂きにしていく同年代の人気ホラー作品とは一線を画し、日常に潜む異常犯罪者の凶行を描くサイコスリラーの様相。隣に住んでいるかもしれない一見常識人にみえる普通のおっさんが、女性のみを狙う危険な異常心理の持ち主だったら…と、我々の生きている日常の壁を隔てたすぐ向こうに潜んでいるかもしれない脅威を描いている。
幼少期のトラウマが原因で女性に過剰に純潔を求めてしまう男の哀愁に満ちた物語だ。自分が異常なのを十分理解し、自分のしていることが犯罪だと知っているのに、愛を求めるかぎり殺人を止めることが出来ない。そんなサイコ男が町に繰り出しては無軌道に犯行を重ねていく姿が悲しい。フランクの台詞は幼児的で何言ってるのかわからないのに、当人にとっては揺るぎない価値観からくる言葉で、母親のようにずっと自分の側にいてくれない彼女たちが許せないのである。マザコンを拗らせるとろくなことにならない。
見所は殺人鬼フランクを演じるジョー・スピネルの熱の入った演技だろう。売春婦の首を絞め上げるシーンの赤黒い顔から汗を吹き出しながら目を見開いて女を見下ろす凄まじい形相。中盤の観客に語りかけてくるようなカメラ目線も嫌に不気味だ。
スタローン映画とも所縁の深いコワモテ俳優だが、そんな彼がアメリカンドリームを手にすべく、主演映画の脚本を自ら書き下ろしたのが本作とのこと。スピネルにとっての『ロッキー』がこの作品だったのかもしれない。そう思うとアツい。